2023夏 つまり移住から一年経って

2024.01.19

       

馴染みの道

高速道の「八鹿氷ノ山IC」で降り、国道9号線を鳥取方面へ走る。

もうすぐハチ北、というところのスキーを滑る人の看板、但馬トンネル入り口のスキーストックのモチーフ。

トンネルを抜け国道9号線から曲がったところにある「歓迎 ハチ北高原 スカイバレイ スキー場」タワーを過ぎ「ハチ北温泉」アーチをくぐり、旅館街入り口の「WELCOME ハチ北高原」アーチをくぐるともうすぐ家だ。

これを見ると、ハチ北に「帰ってきた」と思う。

ハチ北ミュージックフェスが終わり、ハチ北の涼しい夏がはじまる。

この8月で四季をぐるりと経験し、ハチ北に移住してきて一年が経った。

ハチ北の夏

今年の夏もハチ北ではさまざまな催しが行われた。

毎年恒例のホタルマンスリー、地元の有志のヒカリモン倶楽部による「ハチ北高原ひまわり祭り」 

 

ハチ北ミュージックフェスでもお馴染み、KINEMASによる今年初開催のイベント『HACHIKITA RIOT』は香住からDJひじき、タイラキタを招き、また台風の影響で延期になった「大笹盆踊り大会」との合同開催となったことで、地元ハチ北の人と香住や小代、村岡の方々、そして京都や名古屋からきたメンバー、お客さんも一緒になって楽しめるイベントになったのではなかろうか。   

 

全国からマラソン・トレイルラン好きが集まる「姫ボタル・瀞川平トレイルラン」「村岡ダブルフルウルトラランニング」もハチ北にとっては毎年恒例の大イベントだ。

ハチ北のキャンプ場「グリーンパークハチ北」では、「もののけの森 音楽祭」のほかピザ釜を使った「ピザ焼き体験会」や「火おこし大会」も行なわれた。  

「移住」

ハチ北の夜は意外と明るい。

空気がきれいで空が澄んでいるから星が明るくたくさん見える……のはもちろんその通りなのだが、旅館街には案外あちこちに街灯(スキーを滑っている人型の街頭でかわいい)が灯っていて、夜の窓からはその光が差し込んでくる。

なので「田舎に移住」で思い描くような「夜真っ暗」なんてことは、ことハチ北旅館街に関してはまったくないのだった。 

 

「移住」と聞くと、なんだか「人生の一大事!」みたいな、かつ「スローライフを満喫する」ようなイメージがあってどうも苦手だったのだが、私がハチ北に移住することに決めてからひとつ自分に言い聞かせていることがある。

地方移住は特別なことじゃない。

引っ越す場所や理由、そこに住む人もさまざまで、もちろん一様には言えないのだと思うけれど、それでもやっぱり移住はただの引越しにすぎないし、田舎に移住したからといって自分が何者かになれるわけでもない。隠居しなきゃいけないわけでもないしスローライフみたいなものに興味がある必要もない。

そりゃ人付き合いのかたちの違いや、市街地との距離による不便などは、どうしてもある。

住み慣れた場所から離れて(多くの場合はより不便な)新しい環境で一から暮らしを作ってゆくということは大きな決断であることは確かで。

もちろん大きなチャレンジとしての移住もありだと思うし、でもやっぱり気負いすぎずに、大きめの引越し、というニュアンスでの選択はありだと私は考えている。 

移住して変わったこと・変わらないこと

■ 服装がカジュアルになった

街にいた頃と比べると、服装はカジュアルになった。バランスをとって髪色、髪型を変えた。化粧をしない日も多い。

よく着ていたニットワンピースやファーのついたコート、ヒールのあるパンプスはもはやほとんど出番もない。

白い靴や白いボトムスも以前はよく履いていたが、足元がだいたい土か雪なハチ北では汚れを気にしてあまり履かなくなった。

 

暑がりで布が嫌いな私は、できるだけ裸足でできるだけ薄着で布と体が触れ合う面積を少なく、というモットーのもと暮らしてきたが、ハチ北ではそうも言っていられない。

夏であっても足元を虫から守るための長袖長ズボンとスニーカーが必須アイテムだ。

庭先に5分立っていただけでブヨに噛まれてからは、素足で外に出るのもこわくなってしまった。

ちなみにハチ北で生まれ育った方々はブヨに免疫があるらしく(本人談)、夏の山の中でも半袖半ズボンにサンダルで出歩いている人もいます。

 

冬、雪が積もると足元がずっぽり雪の中に埋まるので、膝下までの長靴は避けられない。

どんなにお気に入りのブーツより、去年勧められて行った「靴のヒラキ」(最寄りの靴屋さん。車で片道45分)で買った長靴が活躍している。

 

ここで着るのに適している服、を着ていると思う。

自分の選択は、「これがどうしても好き!」とかそういうものではなくて、ここにいる自分が環境の中でバランスをとった結果なのだなとわかる。 

 

■ 変わらないことは変わらない

多少の暑い/寒いはあれど、変わるのは服装だけで、根本的な暮らしぶりは変わらなかった。

朝が苦手なこと、掃除も苦手なこと、料理をあまりしないこと。

意外とどうにでもなるもんだ。

朝は6時に起きてゆっくり自然の中を散歩、みたいな生活に憧れを抱いたこともあった。

それでも移住したからと言って朝が苦手なことに変わりはないし、ときどき気が向いたときに作り置きを作ってみる程度でやっぱり別に料理も得意じゃないし毎日キッチンに立つわけでもないし、掃除も苦手だし、家が広くなったおかげで多少散らかしていてもまだ床面がある、まだ片付けなくていいかなという気になりやすいのはラッキーなのか惜しいのか。 

暮らしと共に求められるものは変わってゆく

ハチ北での暮らしはすっかり日常になった。

仕事で街に出て戻ってくると「帰ってきた」と思う。

街にいた頃のような暮らしが嫌になったわけでも、今ハチ北でしているような暮らしが好きなわけでもないのだが、その場所場所で過ごす時間の中で自分が求めること、求められることをやっている、という感覚がある。

違うけど同じ、同じだけど違う。街にいた頃の自分も今の自分も嫌いじゃない。

 

街のマンションで暮らしていた頃には使わなかったものを使うようになる。物は今のところ増えている。

コンビニはない。最寄りのスーパーまでも車で20分はかかるが、買いだめでも意外と不便はない。

溜め込むのが好きで、好きなものを好きなときに選べることが幸せだと思っている私には合っているのかもしれない。

こういう話をするときいつも、まだサブスクがなくて電車通学をしていた高校生の頃、好きなときに好きな曲を聴きたいからと小さなトートバッグいっぱいにMDを何十枚も詰め込んで持ち歩いていたことを思い出す。今でもかばんは大きい。 

 

家の中にいるとどこにいても一緒だと思うが、外に出るとまだまだ知らないことばかりで新鮮だ。

ハチ北に住んでまだ一年。

これから本当にハチ北のこと、香美町のことが、好きになったり嫌いになったりするのかもしれない。

それでもここに引っ越してきた一年前、ここを自分にとって大切な一つの居場所にすると決めたことをときどき思い出したい。

一年後の自分がどうなっているのか、まだまだ楽しみでいる。

一覧に戻る