地域おこし協力隊 梨生産業務 福井功一さん
地域おこし協力隊として、香美町に移住。香住の特産「梨」の生産業務を行いながら農林水産課でも働く福井功一さん。
全盛期には100軒近い生産者が支えていた香住梨の農家さんは、現在では40軒近くまで減少し、高齢化の課題も顕著です。
そんな中、梨農家としての就農を目指しながら任期満了となる3年目の地域おこし協力隊として日々の業務に励んでいる福井さんにお話をお伺いしました。
たどり着いた果樹栽培と観光農園
大阪の住宅地で生まれ育った福井さん。大学では森林や里山など環境や農の分野で学び、様々な分野で農業のインターンシップに参加しました。
路地栽培や工場内での水耕栽培など多様な農業を実際に体験していくうちに、自分にあっているものは果樹栽培なのだと感じるようになりました。
大学4回生のときに就活フェアで香美町と出会い、週末就農体験として梨農家さんのところにお手伝いに行きました。いろんなお話をする中で、香美町で梨農家をやってみたいという気持ちになりました。
しかし、いきなり梨農家としてやっていけるのか、体力面においても不安も大きく、また、教わっていた梨農家さんからも若いうちにもう少しまわりを見てきたらどうかと勧められたこともあり、まずは雇用就農で働くことを選択しました。
就職先を探す中で、経営方針や観光農園をやっているという点で合致する山口県の農業法人を見つけ、就職。
ぶどうと梨を主に栽培しており、住み込みで働きながらたくさんのことを学ばせていただきました。
精神面でも体力面でもだいぶ鍛えられたという福井さん。獣害の被害で木がまるまる一本ダメになってしまったり、木の抜根や植え替え、自分たちでハウスを建てる経験など、多くの知見を得ることができました。
そうして2年ほど働いた頃、大学時代にお世話になった香住の梨農家さんから、香美町で地域おこし協力隊として働かないかとお声がかかりました。梨の栽培は山の斜面を使って行われることも多く、農家さんの高齢化に伴い負担が大きく年々減少傾向にありました。
そんな中で福井さんのような若く梨農家を志してくれる人材は、とても貴重な存在です。
地域おこし協力隊として香美町に移住
香美町に移住し、地域おこし協力隊としての任務をスタートした福井さん。
最初は農作業の業務と役場の業務とのバランスが難しく、苦労も多々ありました。
しかし、話し合いを重ねながら、梨農家としての業務を7-8割、役場での業務を2-3割程度で行うようにさせてもらい、3年目となる今年は、就農に向けた準備を着々と進めています。人が少なくなっている共同選果場を手伝いに行ったり、町やJAが行う「香住なしの学校」のお手伝いもしてきたりしてきました。
香住の梨は20世紀の品種が多く、昔は収穫時期や繁忙期に人を一度にたくさん集めて一気に作業したりという形で、栽培されていました。
しかし、現在ではなかなか人手が回らないことも多く、いろんな品種を植えてなるべく労力を均等化するよう工夫している農園も多くなってきています。
忘れられない感動の梨を目指して
梨の栽培は、梨の木の枝を落としたり、梨棚をつくり枝を這わせたり、袋を被せたり、日々の手入れが欠かせません。
栄養が木の隅々まで行き渡るように枝の先端を高くして括ったり、病気や虫が来ないように、美味しい梨を作るためには、年中の管理が必要です。
特に、今年はカメムシの被害が多く、また雨が少ないため実がなかなか太らずに、苦労したそうです。
高齢者の人が心が折れて辞めてしまう気持ちもわかると話す福井さん。
昨年は洪水による氾濫に園地が浸かり、危うく梨の実ギリギリのとこまで水が来たとのこと。それでも山口県で働いているときに食べた甘味と程よい酸味の梨の感動が忘れられず、その梨の味を求めて日々の作業に励みます。
香美町での暮らし
香美町の空き家バンクを活用し、戸建て住宅に住んでいる福井さん。
移住前に暮らしていた山口県では今よりも更に限界集落に近い場所での生活で、それに比べれば豊岡も近いので不便はなく、草刈りや防災訓練などの地域づきあいも色々な話ができて楽しく暮らせているとのこと。
梨農家さんは7、80代も多く、福井さんが農地を引き継ぐ梨農家さんも5,60年の梨を育てている大ベテラン。
地面の様子や天気によりどういう手入れをすればよいかというようなことを感覚的によくわかっているため、福井さんはその農家さんからもたくさんのことを教わっているそうです。
ゆくゆくは観光農園として、現地に来てもらい生の梨を食べてもらうことを目指して日々の農作業に励んでいる福井さんにとって、地域づきあいは目標に向かって協力してくれる仲間づくり関係性づくりの一環なのではないかと感じます。
長期的な視点で地域に溶け込む
福井さんが最初に香美町に出会ったのは大学生の頃。そこですぐに香美町に来るという選択肢もありました。
しかし、何度も通い農家さんと話をする中で、一旦は他のやり方も学び、地域おこし協力隊という受け皿ができてから移住という形を取りました。そうすることで、割と反発も少なく、お互いに負担がなくやって来れたのではないかと話します。
何事もゆっくりと進めることが大事。地域では、物事を進めていく前に顔を合わせ時間を共有することの方が重要な場合も多々あります。
いきなり移住を決めるのではなく、まずは足を運び現地の人たちと話をすることで理想との誤差が縮まり、地域にとっても移住者にとってもより良い形になるのではないかと福井さんは考えています。
山口県での学びを活かし、ゆくゆくは雇用もしながら観光農園を広げていきたいと語る福井さん。
そのためにもまずは香住梨の付加価値を高め、これ以上の規模を縮小させないようにしたいと決意されています。香住の特産「梨」の未来を背負い、若き農家が1人立ちへの離陸を始めています。