極めたい牛飼いの仕事、深めたい人とのつながり

上田畜産・小林一樹さん
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 広がる田畑、家の横でゆったり時を過ごす牛。香美町小代区(旧美方町)に生まれ育ったものにとって、「牛のいるくらし」は日常的。進学のため故郷を離れるも、「いつか帰ってくる、と思って出たんです」と語る小林さん。若干27歳で独立、牛飼いとしての旗を掲げる彼が、畜産の仕事に、そしてふるさと小代に抱く想いとは。

「牛飼い」の仕事に魅力を感じて

 小林一樹さんは、香美町小代区育ち。大学への進学を機に小代を離れ、卒業後は神戸の牧場で経験を積み、小代にUターン。大学進学時には、畜産ではなく農業機械の方面への進路を見据えていたという。大学で同時に畜産も学ぶうち、牛飼いの仕事に「面白さ」を感じるようになったのだとか。

「頑張ったら頑張った分だけ、牛が返してくれるんです。餌のやり方や飼い方によって肉質が変わってきますし、愛情をかけた分だけ良い牛に育ちます」

 高級品種の和牛として知られる「但馬牛」。実は、その発祥はこの香美町小代区。「田尻号」と呼ばれる種雄牛は日本全国の黒毛和種の母牛の99.9%以上がその子孫であるといわれ、和牛の系統作りに貢献した。和牛のふるさとである小代区の牛肉は、きめ細かく濃厚な味わいで、脂の融点が低いためとろける舌触りが絶賛される。  

 小林さんは大学卒業後、神戸の牧場に就職し経験を積む。

「神戸にいる2年間は、研修の気持ちでした。牛飼いの仕事をするなら、実家で、新しい牛舎を建てて……と思っていたので、いつか帰ろうという気持ちでいました。自分の場合、そのタイミングは早めに来ました」  

 帰って独立しようと考えていた小林さんに、畜産農家「上田畜産」の方から「手伝ってくれんか」と声がかかった。

 

牛飼いとして学び、独立へ   

 種付・出産された子牛を月齢9か月まで育て出品する繁殖農家、その子牛を買って月齢28~32か月まで育てるのが肥育農家と呼ばれる中、「上田畜産」は繁殖も肥育も一貫して行っていて、規模も300頭前後と多くの牛を飼育している。独立する前に、その上田畜産で経験を積むことで、自分にさらなる学びがあるのではないかと考えた小林さん。

「実際、たくさんの牛に触れることで、お産や病気など、牛の様々な様子について見て、経験することができました」

 上田畜産には、小林さんと同年代の方もいて、独立を目指している方や、遠方から畜産の技術を学びに来る方など人との出会いも多いのだとか。

「上田畜産は、学びたい人を受け入れてくれるんです。小代も畜産農家が減ってきて、高齢化しているので、若くて志がある人を育てたいと思って下さっているようで」  

 小林さんは、多くの学びを得た上田畜産で現在もアルバイトしながら、2017年春に繁殖農家として独立。将来的な目標は、50頭規模で経営を行い、良い牛を作ること。小林さんの考える「良い牛」とは。

「僕は繁殖農家なので、買ってくれた肥育農家の人が、大きく育つとか、病気にならないとか、喜んでくれるような牛です。肉の質をあげていくように試験的な飼育設計も行っています」

目標に向けて、試行錯誤しながらも、牛に愛情をかけて「良い牛」を作ることに全力を注いでいるという。

 

一度離れたからわかる、ふるさと「小代」の良さ

 地方に生まれ育つと、進学・就職等で都会に出るとき「もう田舎には帰ってこない」と決意する若者も多いと聞く。その中、「いつか帰るという気持ちで小代を出た」小林さん。彼にとって、小代の魅力はどういったところにあるのか。

「ありきたりだけど、自然があって、空気がきれいで。あとはやっぱり人じゃないですかね。外に出たからこそ感じるんですけど、人に温かみがあるんです」

 お知り合いの中では、スポーツの全国大会に出場した時に地元総出で応援してくれた、そのことがうれしかったからと、Uターンの道を選んだ人もいるという。

「帰ってきたときに、『お帰り』というムードはありました。同年代や少し年上の人は、『一緒に飲もうや』って誘ってくれました。小代は、世代間の区別がないんで、歳の離れた人でも付き合える雰囲気があります」

 

 地域内の付き合いがあるのが面白いと語る小林さん。それは、小林さんが地元出身者だからなのか。

「Iターンでもどんどん仲間に入ってますよ。たとえば、大学の時にゼミで来てた人が、そのまま地域おこし協力隊とかで来てくれたりとか。小代の人を好きになったからIターンしたっていう人も良く聞きます」  

 若い人が一人で移住してきたと聞いたら、「一緒に飲もうや」と声をかけて仲良くなったり、その人がSNSで都会の友人に小代の情報をシェアすることで、田植えを手伝ってくれる人を呼んだりしたことも。小代という、団結力もあり、外にも開かれた地域で、小林さんは人とつながり、関係を深めていくことを楽しんでいるようだ。

 

「学びたい人も、地元の人も、Iターンの人も受け入れる雰囲気があります」

人の温かみがあり、仲間を大切にする傍ら、外からやってきた人にも声をかけて人との付き合いを深めていく。小代という場所で、夢も人付き合いも深まっていく。

 

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