いくつかある香住の海岸の中でも美しい海岸の1つとして知られる佐津海岸、その近くで平成31年4月にオープンした3階建てのペンション「クラブリゾートハグ」。
運営するのは、今年、香住の冬を初めて経験する上田さんご夫妻。お二人が大阪市からこの地にIターン移住してこられたのは2018年のことでした。
―きっかけと決断
「毎日の通勤ラッシュとか、いわゆる『都会暮らし』を普通にしてたんですけど、2人でキャンプに行くうちに『静かな空間』とか、肌で感じられる自然とか、そういうところへの憧れを持つようになりました。」夫の智喜さんは勤めていた会社のある方から、このペンション運営の話を提案された時、「転職」としてはいいタイミングなのでは、と移住を決断。
「正直言って、城崎あたりまでしか知らなかったので、この話が来るまで香住は全く知らない土地でした。」大阪育ちという根っからの都会っ子、当たり前だった日常が、1つのきっかけと決断で激変し始めます。
「実際に住んでみて、海や夕陽がホンマにきれいで驚きました。来てよかった!って、その時に思いました」 同じ「夕陽」でも、電信柱が乱立し、コンクリートジャングルの建物の隙間から見える夕陽とは全く異なる、香住ならではの光景です。
「移住するのは、すごい悩んだんですけど、面白そうだし『チャレンジ』してみようって思いました」
Iターン者にとっては移住前の不安要素のひとつである「仕事」ですが、夫、智喜さんから「香美町でペンション経営をしないか」と話を聞いた時に、既に仕事が決まっていて「ゼロスタート」ではないことで安心したのと、実家の祖父が漁師をしていて魚食が日常的だったので、海の近くという香住と共通した点があり、新しい環境へも前向きに考えられたという奥さんの裕子さん。
―暮らし
「魚の種類がこんなに豊富だとは思わなかったです。大阪では売ってない魚もあるし、こんなに魚をたくさん食べることは今まで無かったです。」季節を身近に感じられる海辺ならではの暮らしが新鮮で刺激になっている。また、ご近所との距離感や、コミュニケーションも、苦労していることは今のところ思い当たらない。「ただ、気を付けてる事というか、当たり前の事なんですけど、地域の行事にはできる限り参加するようにしています。顔を出すと、そこでいろんな情報を聞けたり、教えてもらえたりもしますし。ただ・・・、その行事の多さに最初はビックリしましたけどね…」
買い物や生活に苦労することは?との問いかけに、「今までは、すぐ近くにコンビニもあったし、無くなったらいつでも買いに行けたけど、ここは地域に1軒しか商店が無いので、そういう
わけにいかないですよね、買い物の仕方は変わりました。」今まで以上に、買わなければならないものは何かを考え、最低限のものを買うように、と認識が変化してきました。
「あと、2人ともお酒が好きなんですけど、飲みに行く場所や遊ぶ場所が少ないのが、強いて言うなら不自由なところかなぁ…。でも、それも、無いなら無いで来る前から覚悟があったので苦労は別にしてないです。逆に出費が減って助かってますよ。」
不便や不自由も覚悟の上ならば、案外楽しんで暮らせる場所になり得ることも。
―ペンション「Crab Resort HAG」(クラブリゾートハグ)運営
紹介されて初めて来た時はとても大きく見えた建物、自分たちで改良、修復しながら今の形に。「DIYとか全くやったことなくて、こっちに来て教えてもらいながら覚えました。時間はかかりますけど、やっていくうちに愛着が湧いてきて、アイデアも出てきました。」
エントランスの屋根や柱は遠くからでも見つけやすい、鮮やかな空色が施され、広々とした1階食事スペースはシックな雰囲気のカウンターや、広いガラス戸から差し込むあたたかな陽光もあってとても明るく、どこか家庭的な雰囲気も感じられる場所に。
2階の客室は落ち着いた色合いでまとめられ、ゆったりと過ごせそうな雰囲気で、くつろぎの空間が演出されています。しかも各種アメニティはもちろん、全室Wi-Fiが利用可能、SNSなどもフルに活用してもらえる環境も提供しています。「お客さんの気持ちになって改良していくことが基本だと思うので、やれるところから1個ずつって感じです。」内装も外装もとても素人仕事とは思えない丁寧な仕上がり。愛着が無ければできない仕事です。
食事は調理師経験のある智喜さんのオリジナル、2人で協力しながら試行錯誤しながらの日々。
「間違えられやすいんですけど『クラブリゾートハグ』の『クラブ』は『倶楽部(Club)』ではなく『カニ(Crab)』の方なんです。やっぱり香住なので、カニ料理もしっかり出していきます。」
―将来
「この辺りにペンションってあまり無いので、やり方次第で面白くなるんじゃないかと思ってます。ここは海があるので釣りもできるし、土地もあるのでお米や野菜作りなんかもやっていきたいなぁって。お客さんと一緒にその日の食材を調達したりして、今までに無いような宿、ペンションにできたらと・・・」流行に流されず、地域にも愛着があるからこそ、可能性を探りながら「需要を起こす」ことも視野に。
「客室は大小洋間9部屋を2人でやってます。2人でできる範囲が今のところここくらいまでかなとは思ってるんですけど、来年くらいを目安に3階の和室3部屋を整備して、1フロアとしての貸切使用なんかもできそうでいいかなって。合宿とか説明会、研修なんかにも使ってもらえるような施設になればと思ってます」
3階には佐津の海が見渡せるベランダもあり、これからどんな進化を見せてくれるのかが楽しみな空間、そして何事にもひたむきで明るく、親しみやすい上田ご夫婦。香美町のホットスポットの1つになりうる予感です。