季節ごとに豊かな魚介類に恵まれる、山陰有数の漁港・香住港。底曳き網漁や香住ガニ漁、定置網漁など様々な漁が行われています。海沿いには民宿や水産加工業者も多く、漁師町の風景が広がります。海とともに暮らすまち「香住」にIターンし、底曳き網の漁師として、漁師の妻として活動する膳所直樹さん、マリ子さんご夫妻に、漁師の仕事や香住での暮らしについてお伺いしました。
香美町の底曳き網漁師の働き方「大祐丸」の場合
(「大祐丸」ニギス漁の様子)
膳所直樹さんは2009年頃から底曳き網の漁業に携わるようになり、現在は40tの漁船「大祐丸」の船長を務めています。
「周りを見ていても、底曳き網の船頭はどんどん若くなってきているように思います。僕も30代ですが、同年代の方もどんどん増えてきている印象です」
「漁師」と一口に言っても、船によって働き方は様々です。「大祐丸」の年間スケジュールは9月頃からハタハタやマガレイの漁期を迎え、10月はアンコウやノドグロ、11月から1月は松葉ガニが全盛期を迎えます。2月から5月はホタルイカ漁が中心になり、6月から8月は網直しや船のメンテナンス期に入ります。季節に応じて獲れる魚介類が変わり、それにより生活リズムも変化。ホタルイカなどの日中に獲れやすいものの場合は、早朝3時から海にのりだして日中に網を打ち、夕方に帰港というスケジュール。松葉ガニ漁などの場合は満船になるまで船の上で過ごし、長ければ2泊3日ほどの漁になります。
(漁に向けて、底曳き網を引き出す様子)
船いっぱいに魚介類が獲れると、港で待つ奥様・マリ子さんに連絡が入ります。獲れた魚を船から競りをおこなう上屋へ運ぶ「浜揚げ」は、漁師の妻としての仕事。11月から始まる松葉ガニの季節にはこれにランク分けが加わります。カニのランク分けは漁港によって異なり、大きさ、身のつまり方、足の形や揃い方等によって130以上の種別に分けられます。1.4kg以上の成体で、見た目も美しく足も揃ったものは最上級の「香住PREMIUM(プレミアム)」のタグがつけられます。およそ3000枚にの1枚の割合でしか獲れれないまさにプレミアムなカニは、年々高値で取引されています。
(「大祐丸」カニ漁の様子)
「魚について何もわからなかった私ですが、今では水産加工場でも仕事をしています。主人が獲ってきたカニや魚をお客さんが楽しそうに買ってくれるのを見るのはとても嬉しいです。また、『浜揚げは辛い仕事』と地元の方から聞くこともありますが、実際やってみると魚についての知識も増え、楽しさを感じることも多くあります。」
海と隣合わせで生きる暮らしに手応えを感じるお二人ですが、初めは戸惑いも多かったといいます。
(浜揚げされたハタハタ【左】ノドグロ【右】)
夫婦ともに移住、戸惑いを乗り越えて香住暮らしを楽しむ
(膳所直樹さん)
直樹さんは豊岡市竹野町のご出身。祖父の代から竹野町で漁業を営んでいましたが、ご自身は学校卒業後、大阪にて別業種で活躍していました。大阪で出会ったマリ子さんとの結婚を機に帰郷。その頃ご実家は船の所属する漁港を香住に移していました。お父様に頼まれ、気軽な気持ちで漁に出始めたと直樹さんは言います。
「大祐丸は7人乗りの底曳き網の漁船です。始めは手伝いのつもりでしたが、父と一緒に現場に入ることで、経営など責任の重さを感じるようになりました。船頭になってまだ2年。漁場探しの経験が浅く、苦戦することもありますが、実践して積み上げて行くことで独自のノウハウを築いて行こうと思います。」
(膳所マリ子さん)
直樹さんとともに香住に移住したマリ子さんは、田舎暮らしの経験もなく、始めは戸惑いも多かったと言います。
「今は好きになったのですが、香住に来るまでは魚が嫌いで。魚料理の仕方もわからないし、知り合いもいないし、慣れるのには時間がかかりました。」
浜揚げや水産加工場の仕事を通し、マリ子さんは少しずつ海とともに暮らす生活に慣れて行き、最近では「香美町とと活隊」にも入隊、魚食普及の活動に精を出しています。
「お祭りでサザエ釣りの催しをするなどの他、会議にも参加することで香美町とと活隊の方たちが魚食普及に取り組む、その一生懸命さを実感しました。学校などの料理教室にも参加しますが、私はまだ勉強中なので『一緒に教えてもらおう』という気持ちでやっています。活動に参加することで出会いがあり、今ではどこに行っても知り合いに会うほどです。子どもたちの成長も地域の人が暖かく見守ってくれ、香住は本当に居心地がいいなと感じています。」マリ子さんは今、戸惑いを乗り越え暮らしを積極的に楽しんでいます。
海で働き地域にも飛び込むのが、暮らしを楽しむコツ
(浜揚げ後の競りの風景)
直樹さんが海に出ている間、陸で様々な活動に勤しむマリ子さん。そして漁師自身もまた、「陸での時間」が大事なのだと直樹さんは語ります。
「仕事は海の上で、同じメンバーで何日も過ごします。それだけだと日々に張り合いがなくなりがちです。時化(しけ)の時期には漁に出られないこともありますから、陸での生活をいかに充実させるかが鍵です。そのためには自ら地域に溶け込んでいくこと。夫婦ともに移住者で、香住のことは海のことしかよく知りませんでしたが、生まれてきた子どもたちにとってはここが故郷になる。それなら地元の祭りや行事に積極的に参加したいと考えるようになりました。」
地域をよりよく知るために直樹さんが門扉を叩いたのが香住青壮年会。香住区の様々な業種の若手が集まり、納涼祭りや節分祭りの企画運営など様々な活動を行う団体です。
「ほとんどが地元香住の方だったので、移住者が入っていいのかと思っていましたが、『よく来てくれたな』と温かく迎え入れてくれました。地域の中で会ったことのなかった人たちと話す機会が増え、香住の人のオープンな温かさを感じましたし、繋がりができて香住の良さを感じました。僕たちのように移住してくる人には、地域と繋がれる団体に飛び込んで行くことをお勧めします。」と直樹さんは笑顔を見せます。
(子どもたちも漁場の近くで過ごし、大人の働きを間近に見て育ちます)
「仕事でももちろん、張り合いを感じる時があります。獲ってきた魚を食べた人がすごく喜んでくれ、『魚の鮮度がよくて美味しい』『こんな魚食べたことない』と驚かれるのは嬉しい瞬間です。自分の獲った魚がどんなふうに消費者に届けられ、食べられてるんだろうと想像すると、社会に貢献できているやりがいを感じます。ただ毎日ルーティーンで魚を獲るだけなら行き詰まりますが、自分の獲った魚で社会に貢献しているビジョンが持てたら、もっと鮮度抜群のいい魚を届けるにはどうしたらいいかと創意工夫の気持ちになれます。」
仕事にプライベートにと、香住での暮らしを家族で満喫する膳所さん一家。陸での活動を充実させながら、今日も香住の海に向き合います。
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社名大祐丸株式会社
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香美町とと活隊