香美町への移住のきっかけのひとつに、結婚などライフステージの変化があります。香住生まれの山田航大さん、大阪生まれの楓さん夫婦は、神戸・尼崎での会社員生活から一転、結婚を機に航大さんの実家がある香住にお引越し。それから1年、気取らず自然体に香住ライフを楽しむお二人に、香住ならではの暮らし方や人との繋がりについてお話を伺いました。
香住が好きなのに、なぜ自分は都会にこだわってるんだろう。
香住生まれで香住育ちの航大さん。地元に愛着はありましたが、進学で神戸市に移り、そのまま就職。楓さんと出会い、特に問題を感じることもなく日々を過ごしていました。そんな航大さんの気持ちを大きく変えるきっかけになったのは但馬方面への出張だったといいます。
「その時に実家に泊まっていてふと、『なぜ自分は都会にこだわってるんだろう』と思ったんです。急にひらめいたように、『だったら仕事をやめて帰ってこよう』と言う気持ちがでてきて」
測量士の資格を持つ航大さんは、香住から通える範囲内で仕事を探しました。現在の通勤時間は車で一時間。少し長いようにも感じますが、「これぐらいが仕事とプライベートの切り替えができ、自分だけの時間も持てるので丁度いい」と感じています。
同時に楓さんとの結婚の話も固まり、ともに香住で住むことに決定。ただ、大阪生まれ、尼崎で働く楓さんについては「こんな田舎でやっていけるのだろうか」という心配も、航大さんにはありました。
暮らしの違いに戸惑いながらも、日々を楽しく過ごせる理由
「私が育ったのは河内長野市で、大阪と言っても山が近くにあり、田んぼも少し歩けばあるという環境です。それでも住宅街だったので、ここに来て一軒一軒のスペースが広いなと感じました」と、香住の第一印象を話す楓さん。尼崎市で働いていたときは、仕事帰りにショッピングモールやカフェに立ち寄り気分転換をしていたのが、香住に来てからはできなくなり、「今は慣れましたが、最初はちょっと戸惑いました」と話します。
結婚し、香住で暮らすことが決まり、航大さんのすすめで楓さんは㈱トキワに入社。移住する前に不安や戸惑いはなるべく解決しておくことで、スムーズに新生活へ移行することができました。
「実際に住んでみて、ちょっとしたお出かけができないことや、移動はほぼ100%車になっちゃうこと、普段の医療は大丈夫ですが産科が町内にないことなど、結婚して嫁いでくる人にとってはちょっと大変かな」
それでも楓さんが香住の暮らしを楽しめているのは、「夫を通しての人とのつながりがあるから」。航大さんの中学・高校時代の友人は繋がりも強く、畑や小さなキャンプ場を自分たちの手で作るなど、楽しみ方をどんどん生み出していきます。
「お金のかからない、田舎ならではの大人の本気の遊びっていうのが不思議な感覚で楽しいです。またそのメンバーでもある伊藤達巧さんが、レンタルスペースglassで『香美町まちなか移住相談室』を開いているので、仕事帰りに立ち寄っていろいろお話して帰ったりするのも気分転換になります」
仕事もあり、週末の楽しみもあり、多彩な活動をする人とも早く繋がれたことが、香住ライフを充実させていると話す楓さん。「よそ者だからと言う雰囲気はなく、飛び込みやすい環境や、ぱっと入っても大丈夫なウェルカム感があります」と、香住の人の良さには太鼓判を押します。初めは楓さんが香住での暮らしに馴染めるのか心配していた航大さんも今の様子に安心しているそうです。
仕事も遊びも「農業」も、暮らしを充実させる柱
日々の仕事や、友人たちと行う本気の遊びのほか、航大さんと楓さんが大切にしているのが「農業」の時間。航大さんの実家が管理する広大な田んぼを休みの日に手伝います。全く初めての農業ですが、「家族だけなので気を使わず、開放感のあるところで自分のペースで農業ができてストレスフリーです」と笑顔を見せる楓さん。幼い頃からご両親の農業をする姿を見て育ってきた航大さんも、「職場での仕事とはまた違う、気晴らしのようなもので、農作業があるからこそ自分があるというありがたみも感じている」と話します。
地域で若い方が農業をしている姿は珍しく、高齢化で農業に携われなくなった方から「うちの田んぼも世話してほしい」と頼まれ、年々管理する土地は増えているとのこと。
「兼業農家とは思えないくらいの量をこなしているので大変ですが、自分たちのためにもなることだから。ゆくゆくは(香住区)三谷の全域に携わることができたらというビジョンもあり、将来的には農業だけで生きていくのが夢です」と航大さんは力強く話します。
「なぜか香住だと時間がゆっくり流れる。なぜかはわからないけれど、この不思議な時の流れが好き」と話すお二人。夏は思い切り農業を営み、冬はゆったりした時のなかのんびりと過ごしながら、航大さんは大好きなスキーをするなど、今ここでできる季節ごとの楽しみを満喫しています。地域全体のこれからもビジョンに入れ、一日一日地に足をつけて歩むお二人の姿が印象的でした。