気づけば近くにあった「大切な場所」で新たな挑戦を

キタムラ時計店 北村要司さん
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家業がある家に生まれた子どもには、多かれ少なかれその家業と向き合う局面が訪れます。それを運命の仕事として自然と憧れ目指す人、自分なりの道を他に見つけて外に出る人、それぞれにストーリーと想いがあります。時計・宝飾・眼鏡を取り扱うお父様の背中を見て育ち、現在家業を継ぐため通信大学で資格取得を目指している北村(きたむら)要司(ようじ)さんにも、家業を志すまでのストーリーがありました。

 

 

家業から離れ、音楽に明け暮れた日々

北村要司さん

 

北村要司さんはキタムラ時計店の次男として生まれ、幼少期から高校まで香住で育ちました。高校卒業後の進路を決める段になっても、北村さんには進みたい道が見つかりませんでした。やがて周りの勧めもあり、家業を受け継ぐつもりで時計・宝飾・眼鏡を総合的に学ぶ専門学校に進学。それを機に生まれ育った香住を離れました。学校で知識や技術を身につけ始めていた北村さんですが、そのうちにどうしてもチャレンジしたかったことを思い出します。ロックが好きでベースを弾くのが得意な北村さんは『一度自分の夢にチャレンジしてみたい』と一念発起、専門学校を辞めて大阪は難波へ。ベーシストとしてバンドを組み、数々のライブ活動を行いました。大好きな音楽に囲まれ、便利な都会で過ごす日々は刺激的でしたが、30歳を過ぎた頃、音楽活動に限界を感じ始め、2013年に帰郷。

「親は、僕自身が帰ろうと決断するまで、思う存分音楽をやらせてくれました。20代のころも、何度か帰ったほうがいいのかと思ったことがありますが『今帰ると一生ひきずる』と思ってやりきりました。納得いくまでやらせてもらえたので、全然後悔はありません」

区切りをつけて香住に帰ってきた北村さんは、新しい暮らしにむけて動き始めました。

見慣れたこの場所が「愛おしい場所」に

北村さんの前職は豊岡市の映画館スタッフでした。その映画館はただ映画を上映するだけでなく、豊岡市への移住者が集まる拠点としても利用されています。様々なストーリーを持ち移住してきた移住者たちとコミュニケーションをとるうち、「まちの時計・メガネ店」として親しまれてきた「キタムラ時計店」を想う時間が増えてきました。

「ふと、この場所が愛おしくなったというか、『自分にはここがある』と思えたんです」

自分なりの目線で、「家業」を見つめ直したい。そう思ったとき、北村さんがピンときたのが「メガネ」でした。

「以前時計・宝飾・メガネの専門学校に行っていたときも、時計と宝飾の授業よりもメガネの授業が好きでした。これから高齢化社会も進んでメガネが必要な人は増えますし、ゲームやスマホの影響で視力が下がる子供も増えています。社会的にニーズも大きくなり、さらにファッション性もあるメガネに可能性を感じました」

はじめは家業後継を見据え、お父様から学ぼうとした北村さんでしたが、お父様は生粋の職人。背中で見て学ぶのも難しく、カリキュラムに沿った体系的な学びを得たいと考えます。

「通信教育でメガネについて本格的に学びたいと言ったとき、父は『ほんまかい』というようなリアクションでしたが、今は両親も妻も、家族全員で勉強を応援してくれています」

2022年11月に誕生した国家資格・メガネ制作のエキスパートの証「眼鏡作製技能士」を目指し、メガネの通信制専門学校に入学。毎月教科書に沿ってレンズの加工の仕方や眼窩の構造など専門知識を学び、レポートを提出して着実に単位習得に向けて動く日々の始まりです。

 

まちのメガネ屋さんだからこそできること、自分なりの後継の形を

現在は「キタムラ時計店(メガネのキタムラ)」で実務経験を積みながら勉強も行い、お店のSNS発信等も請け負う北村さん。香住のまちで長く続いている「まちのメガネ屋さん」だからこそできることがあると話します。

「メガネの量販店では、おしゃれで安価なフレームがたくさんあります。でも、こういう個人のメガネ屋としては、お客様の『よく視えるという喜び』に寄り添うことが大切です。一人ひとりの目に寄り添った丁寧な検眼を行い、レンズの品質にこだわったメガネを提供したいと思っています」

さらに「まちのメガネ屋の弱点としては『入りにくさ』があると思います。そこのハードルを越えてきてもらえるように、例えば中でコーヒーを飲めるようにするのもいいかなと、漠然と考えてもいます」と、専門学校卒業後のビジョンも描きつつあります。

前職で移住者とよく話し、また今故郷のまちのメガネ屋さんの後継を目指す北村さんは、地方移住についても想いがあります。

「このまちのために何が出来るか、と考えて移住される方も多いのですが、まずは『この場所で自分が何をしたいのか』を考えることが大切かなと思います。都会と違う風習や人付き合いもあり、香住はいい人が多いですが人間関係も濃いので、自分のぶれない『目的』を持つことは重要です」

北村さん自身も今「やりたい」と思えることを見つけ、また同級生もやりたいことを求めて帰ってきている人たちがいるといいます。帰る人、来る人、多くの人の「したいこと」「やってみたいこと」が集まってできる「新しい香住のまち」の姿が楽しみです。

 

 

 

 

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