2020年7月、ハチ北のゲレンデにキャンプ場がオープンしました。森の中のプライベート・リゾートのようなキャンプを楽しめる「森とぼくの休日」を営むのは、ハチ北に住む西谷大我さん・沙紀さんご夫妻と、大阪に住む沙紀さんの姉・村中志帆さんの3人です。ハチ北に生まれ育った大我さん、ゆかりのないハチ北に嫁いできた沙紀さん、平日は大阪で会社員として働き週末はキャンプ場でコンセプト作成などに関わる志帆さんに「森とぼくの休日」の誕生秘話を伺いました。
地域ぐるみで育ててくれた故郷に恩返しをしたい
(左から、村中志帆さん、西谷大我さん、西谷沙紀さん)
ハチ北でゲレンデ併設のホテルを経営する家に生まれ育ち、スキーを生活の一部として育った大我さん。「良くも悪くも目立つ子どもだった」と自身を振り返ります。
「担任の先生がみんな『一番印象に残った生徒は大我くん』と言うくらい、型破りというか、全校集会で突然歌いだしたり縄跳びしたりとだいぶ変わった子でした。地域ぐるみで育ててもらっていたので、地元のすべての人に迷惑をかけたと思っています」
大我さんはその後、スキーを極めるため、高校進学を機に京都府へ。厳しい寮生活で社会の規律を知り、「自分は地元の人に迷惑をかけてしまった。まず、ちゃんと大人になった姿で帰るのが恩返しの一つだ」と思いを固めて大学卒業後に帰郷しました。
「高校、大学と都会で暮らして思ったのは、確かに都会は便利だけど、『便利なだけ』 だなということです。水が飲めない、空気が淀んで窓が開けられない、お米や野菜が美味しくない……水も空気も野菜も美味しくて、人の温かみを感じるハチ北には、都会の何十倍も価値があるって思いました」
地元とスキーを愛してきた大我さんですが、漠然とした不安がありました。それは雪の少ない暖冬が少しずつ増えていたこと。「スキーが衰退したら、ハチ北も衰退してしまう。出身地がなくなることほど悲しいことはない」。やがて来る現実のために何ができるのかを常に考え続けていました。
ハチ北で生きる人が受け止めなければならない「未来の現実」とは
大我さんの奥様である沙紀さん、そして姉の志帆さんは山口県岩国市出身。ハチ北と岩国市という遠く離れた3人の共通点は、それぞれ幼少期からスキーをしていたことで、スキーを通していつの間にか親しくなっていたのだといいます。沙紀さんはデザイナーとして大阪、東京で働いた後、2018年に結婚によりハチ北へ。暮らしてきた環境や仕事の大きなギャップに、戸惑いも多い日々を送っています。
大我さんはそんな沙紀さんについて「僕がスキーやホテルをやりたいと思っていたのと同じように、彼女は自分の軸に『デザイン』があるので、ハチ北でも好きな仕事を続けられるようにしたい」と言います。
「地域のしきたりやルールもあるけれど、ここの人たちは、人口がどんどん減っていくまちに嫁いでくれるありがたさを再認識すべきです。ここは便利ではないし、いいところばかりではありません。それを背伸びせず伝えて、それでも嫁いでもいいよって言ってもらえるように、僕たち旦那や地域の人は超絶頑張って、『いいな』と思ってもらえるところを作っていかなあかんと思います」
(ゲレンデ併設のホテル『Aoitori』)
結婚1年目、2019年の冬は記録的暖冬で、豪雪地帯のハチ北にすら雪が降らず、ゲレンデを営業できたのは2月のみでした。まさに大我さんの描いてきた将来への不安が現実となり、気を取り直して夏合宿の受け入れ体制を整え始めた頃に追い打ちをかけたのがコロナ禍。
「僕たちにとって、スキー場が生活の柱で、雪の多少が生活に関わります。暖冬が増える中、暖冬をしのぎながら来シーズンの雪を願うだけでは厳しいのではないかと」
打開策として打ち出したのが、一年中営業ができ、開放的なハチ北の自然を生かしてできること、つまりキャンプ場の開設でした。「キャンプ」というキーワードから浮かび上がったのが、志帆さんの存在でした。大阪のビル街で広告関連の仕事をする志帆さんから見て、大我さん一家が経営するホテル近辺の森にキャンプ場を作ることは、とても魅力を感じる提案でした。
3人のスキルと心意気を合わせて始まった「森とぼくの休日」
現在、平日は大阪で会社員として働きながら、休日はハチ北を訪れる生活をしている志帆さん。会社のお昼休みには、注目されている要素やときめくものを探しに街に出ます。志帆さんが都会のトレンド要素からキャンプ場に応用できるエッセンスを持ち込み、デザイナーとしてのスキルを持つ沙紀さんがそのエッセンスを形に、大我さんがそのデザインを元に場作りをする。3人のスキルが合わさりできた「森とぼくの休日」は、都市部のような利便性こそないものの、喧騒から隔絶された大自然ならではの価値を、ときめきとともに感じられるスポットに仕上がりました。
(カフェメニュー・「苺とわたしの休日」。アンテナとなる志帆さんが都会暮らしの中からトレンドをキャッチして、カフェメニューにも反映させている。)
2020年7月のオープンから、京阪神のお客様を中心に感度の高いキャンパーに選ばれている「森とぼくの休日」。ゲレンデ横のホテルのきれいなお風呂やトイレを使えるなど、キャンプ初心者にも優しい設計で、口コミでも高い評価を得ています。
ゲレンデを利用したキャンプ場で、寒くなるこれからの季節に大我さんたちが提案したいのが「冬キャンプ」。山の中で楽しむ白銀の世界、冬ならではの澄み切った星空、心から温まる焚き火の時間、さらにはスキー板を履いてテントまで来られるというスキー好きにはたまらない魅力も。
(森と僕の休日、冬キャンプのイメージグラフィック。沙紀さんの作品です)
「僕たちは、地域のみんなが真似できるようなことをしたかったんです。子どもの頃から良くも悪くも、僕がやってることは目立つので、みんなにトレースしてほしい。自分のところだけ生き残るんじゃなくて、地域に新しいムーブメントを作りたいと思っています」
ハチ北がもともと持つ豊かな資源を最大限に生かして新しい切り口で発信する。楽しいことが好きな大人が集まってくる。その姿を子どもたちが見て、「大人になったらきっとハチ北に帰って来たい」と思ってもらえるような地域を作ることが、故郷を愛する大我さんが「森とぼくの休日」に込めた願いの一つです。
Info
森とぼくの休日
〒667-1344 兵庫県美方郡香美町村岡区大笹535-1
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