香美町で生まれ育った若い方には、進学や就職を機に町外に出て、そのまま香美町には戻らないケースが多くあります。地方育ちのコンプレックスや都会への憧れのほか、長く同じ地域で暮らしていることで、その地域の良さが当たり前に感じられ、積極的に暮らしを楽しむことが難しいのかもしれません。今回出会った伊藤達巧さんは、香住生まれの香住育ち、生粋の香住人ですが、常に新しい出会いとワクワクする計画のある日々を楽しんでいます。何気ないように見える日々の暮らしにきらめきを見つけ出すそのコツをお伺いしました。
(伊藤達巧さん)
ずっと香住が一番だと思っていました。でも……、
生粋の香住人・伊藤達巧さんの日々は子ども時代からアグレッシブ。小学生の頃は川で魚を捕まえ、中高生からは毎日海に潜るのが日常でした。シュノーケリングをしたり、小島から海に飛び込んだり、真っ黒に日焼けして楽しんでいました。歳の離れた弟さんがいて、小さい子どもが好きだったことから職業は保育士・幼稚園教諭を選択し、現在は香住区の幼稚園で勤務しています。幼い頃から海を満喫していた伊藤さんにとって香住は誇れる場所です。
「ずっと香住が一番だと思っていました。でも、昨年まで小代の認定こども園に勤めていたこともあり、小代区、村岡区の方ともよく関わるようになって、個性的な人が多い村岡区や、人間味溢れる人が多い小代区もいいな、魅力的だなと思うようになりました」
小代区にある貫田うへ山の棚田は日本棚田百選にも選ばれた名所で、雄大な山間の中でカーブを描いて重なる棚田の風景は地域の誇りでもあります。2010年代前半、うへ山の棚田の担い手が高齢化し不足していく現状をなんとかしたいと考えた若者たちが、自ら団結し棚田の保全を目指す「俺たちの武勇田」を結成、毎年多世代による米作りを行っています。伊藤さんも棚田の田植えや稲刈りに招かれ、世代を超えて一つのことを成し遂げる喜びと楽しさを実感したといいます。
それぞれのスキルを寄せ合い、さまざまな切り口で人とのつながりを広げる
(「俺たちの武勇田」 棚田での稲刈りの様子)
「『俺たちの武勇田』のメンバーはさまざまな仕事についている人がそれぞれのスキル・技術を持って集まって、人のつながりを作り上げています。そういう人たちはどこか魅力的で協力的で、形はそれぞれ違っても地域に思いを持ち、何かをしたいという志を持っています。そういう場所を自分も香住で作れたらと考えるようになりました」
伊藤さんは同級生や彼にとって頼れるアニキ的存在である「NPO法人TUKULU」の松岡大悟さんとつながり、友人の所有する空き地の草を刈り、整地をして、自然と触れ合う活動を通して人と人がつながれる場所を作ることを目的に大人の秘密基地づくりに力を注いでいます。
「ラフにいろんな世代が関わって遊べる場所があったらと考えています。楽しそうにしていたら自然と人は集まってくるので」
キャンプ、釣り、海泳ぎ、音楽と多趣味な伊藤さんにはさまざまなフックがあり、多くの切り口で人を惹きつける力があるように感じられます。
音楽を通して伝える、「地域で活動する楽しさ」
(音楽イベント「芝居小屋ROCK FESTIVAL ジンリキソニック」の様子)
(伊藤さんの友人が企画し、出石町で開催された「音物語」の様子)
伊藤さんの人を惹きつけるフックの一つ音楽活動。豊岡市や出石町のイベントで「DJひじき」の名前で活動を行っています。
「ライブが好きで、京阪神のライブに行くのですが、香美町では高校生もライブの楽しいノリや、その楽しみ方を知らないように感じました。曲の本当の楽しさを知ってほしい、体を動かして音楽を楽しんでほしいと思ったのがDJを始めたきっかけです」
その後、香住高校の生徒たちが音楽をフックに活躍できる場所づくりをしたいという思いが芽生え、半年の構想・準備を経て2019年2月に香住文化会館で開催された音楽イベント「僕らの武道館フェス」へとつながりました。僕らの武道館フェスでは香住高校生や、香美町出身者を中心とした社会人の音楽バンドが出演。SNSを通して高校生の間で話題になり、200名以上の観客が集まりました。
(2019年「僕らの武道館フェス」 出演・運営メンバーと)
「高校生がみんな楽しかったと言ってくれて、地域で活動できる場所を作れたという充実した達成感、手応えがありました」
2020年は新型コロナウィルスの影響で同様の形での実施は断念しましたが、準備段階では村岡高校の生徒も関わり、出演予定でした。香美町内にある2つの高校、香住高校・村岡高校のつながりを今後も作っていきたいとさらなる構想を練っています。
「なんにもない場所」に伊藤さんが見出した、キラリと光るものとは
(香美町スタディツアーの様子)
2019年、伊藤さんはアウトドアの趣味を活かし、海や川などの豊かな自然をまるごと楽しむ遊びを提案する「スタディツアー」を企画。川に罠を仕掛けて獲った川ガニや魚を調理して食べる、サバイバル要素のあるツアーは大盛りあがり。まさに伊藤さんのコアな部分でもある自然と人とのつながりを謳歌する機会となりました。
「香美町は、『なんにもないけどなにかがある場所』だと思っています。もちろん目に見えるところでも松葉ガニや但馬牛など誇れるものはあるのですが、知っている人は少ないかもしれないけれど珍しい生き物が川に住んでいたり、狩猟をしている人がいてジビエを楽しめたり、目に見えないけれども人のつながりがとても強い場所です。そんな香美町の、知られてないけれどすごく面白いところを、人と関わりながら伝えていきたいと思っています」
香美町にある、目には見えないけれど確実にそこにある、キラリと光るもの。ただ「なんにもない場所」と断定してしまうのは、伊藤さんが見出すような面白さにまだ気づいていないだけかもしれません。香美町の楽しみ方や面白さをさまざまな切り口で感じ取ってもらえるような計画は、伊藤さんの中にまだまだありそうです。
(取材場所 レンタルスペースglass)
伊藤達巧さん
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