ハチ北ならではの多角的戦略による観光振興と本来の自然を生かした魅力溢れる地域づくり

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ハチ北観光協会
一般社団法人 ハチ北高原自然協会
代表理事 田丸明人さん

スキーやキャンプなどアウトドアアクティビティを思いっきり楽しめる自然豊かな村岡のリゾート地、ハチ北高原。
一般社団法人 ハチ北高原自然協会(以下「ハチ北観光協会」という)で代表理事を務める田丸明人さんは、道の駅 村岡ファームガーデンや但馬高原植物園など、たくさんのアイデアを活かしながら地域全体を盛り上げてきた仕掛け人です。今回はそんな田丸さんに観光協会の代表となるまでの経緯やハチ北の大自然を活かした活動についてなどたくさんのお話を聞かせていただきました。

香美町村岡区大笹地区は鉢伏山の北側に位置し、通称ハチ北高原(以下「ハチ北」)と呼ばれるスキーやスノボードで人気の西日本を代表する冬のリゾート地です。
ハチ北で生まれ育った田丸さん。しかし最初から観光の仕事をしていたわけではなく、大工仕事や建築物に興味があった田丸さんは建築士を目指して名古屋にある建築系の専門学校に進み、卒業後は近隣の建設会社に就職しました。
転機はそれから3年ほど建設業界で経験を積み建築士へのステップアップを目指そうというタイミングでした。
建築士になる前に一度思いっきりスキーをしたかったこともあり、長野県の信州にあるスキー場近くの宿屋でアルバイトを始めました。
そこでペンションという宿泊業態と出会いその面白さを知り、地元でもやってみたいと思うようになります。

その頃、美方郡に民宿は数多くありましたが、ペンションという形態の宿泊施設はまだ一軒もありませんでした。
そこで、田丸さんは25歳の時に思い切って地元に戻り、ハチ北で初のペンションを開業することにします。
一からペンションの経営を始めた田丸さん。
立地がそれほどよいところではなかったため、広報活動に力を入れたりリフト乗り場まで送迎をしたり、他の宿にはないサービスや工夫を重ねた結果、お客さまが徐々に来てくれるようになりました。
しかし、いくら宿屋だけ個人が頑張っていても、そもそもハチ北自体にもっと集客ができないとお客さまは増えないのだと感じ、地域をあげてなんとかしようと観光や地域づくりへの興味や関心が強くなりました。

そして、20代に観光協会に入り、38歳のときハチ北観光協会の会長になります。当時はまだ香美町として合併する前の村岡町時代で、ハチ北の代表として村岡の観光協会に顔を出していると、たちまち村岡観光協会の会長に抜擢されます。
そうして、活動する地域を広げながら観光を中心とした地域づくりに深く関わるようになりました。

田丸さんが村岡観光協会の支配人に就任した頃、村岡の豊かな植生がテーマの植物園をつくる計画が始まります。
その後、株式会社むらおか振興公社という第三セクターの社長に就任し、完成したたじま高原植物園とともに道の駅 村岡ファームガーデンの経営にも着手し始めます。
オープン当初、村岡ファームガーデンに並ぶお土産のほとんどが他所で作られたものばかりだったことに疑問を感じた田丸さんは、この土地で産まれたものでないと村岡のお土産とは言えないと思い、特産品開発や農業振興にも力を入れ出します。


(期間限定で但馬牛を放牧する大笹牧場)

植物園にある但馬牛レストランを訪れる観光客の中には但馬を「たじま」と読めない方も多かったそうで、但馬牛ブランドの認知度を広める取組みも展開します。
元々、神戸牛などのブランド和牛になる素牛用子牛の繁殖は盛んでも和牛ブランドとしては販売していなかった肉用牛の但馬牛(たじまうし)。神戸牛や松坂牛となる素牛を生産するOEMばかりではなく、ブランド和牛但馬牛(たじまぎゅう)として肉の生産とブランド化を進めました。
繁殖だけでなく肥育を含めた飼育に方針転換を行い、今では1000頭を超えるクオリティの高い但馬牛を飼育する畜産会社さんの牽引によって肥育農家さんも増えています。また、村岡では小豆が有名とのことで、棚田を利用し手作業によって種まきや収穫された色鮮やかな高級小豆として知られている美方大納言も「美方ルビー」ブランドとして成長させています。
赤字経営からV字回復をさせ、数々の特産品を広めてきた田丸さん。常にクビを覚悟しながらも戦略的に、時には強引にアイデアと行動力で実行し続けてきました。そして、2021年むらおか振興公社の社長を退任し、現在は農業を中心にハチ北観光協会からの地域づくりに注力しています。

※用語解説 
素牛・・・・・繁殖用または肉用として飼育される前の子牛
繁殖農家・・・繁殖牛を飼育して子牛を生ませ、子牛を素牛になるまで育てて出荷する農家(但馬牛)
肥育農家・・・肉牛の素牛を購入して飼育し、肉として出荷する農家(松坂牛や近江牛)
OEM・・・・委託者のブランド名の製品を受託して生産すること
但馬牛の子牛が各地に出荷され、神戸牛や松坂牛や近江牛というお肉になる。

地域資源をふんだんに活かした観光は貿易と一緒だと話します。
外資を稼ぎ、どう地域で循環させるか。

冬場のスキーシーズンにはたくさんの外資が落とされるハチ北ですが、夏場の観光は常に課題です。
そんな中で流行を敏感に捉えブームを生み出す田丸さんの発想力によってこれまでの経験を活かしながら楽しそうな取組みがどんどん展開されていきます。
コロナ禍時にはキャンプ場を流行りのオートキャンプ場としてPRし、冬場しか営業していなかったハチ北温泉も夏場は観光協会が営業しています。
土日や祝日、イベント開催時も温泉に入れるようになりました。
地名を知ってもらうために、村岡ダブルフルマラソンを開催し、常設コースを設置。ランニングという目的を作り温泉に入ってもらうことを狙います。
出産前の但馬牛を放牧する大笹牧場では6月〜10月の期間限定で但馬牛のガイド養成講座をプラチナ人材センターとして開催。
オートキャンプ場グリーンパークハチ北ではキャンプ場エリアに隣接するもののけの森が有名アニメに登場する神秘的な森のようだと大人気に。
もののけの森に整備されたワンダフルロードでは、愛犬と一緒に森の散策が楽しめます。
山の中に視界が広がる景色を作り、ハチ北の山々を一望できる見晴らしがいい高台には木の枝を使って鳥の巣のような展望台を設置。
キャンプ場から階段500段と急傾斜の道なき道を進む上級者向けのアスレチックアトラクションの鳥の巣展望台はインスタ映えスポットとして人気です。

ハチ北の地域では、飲み会がとても多いのだそう。住民が楽しく暮らせるように、楽しいところに人が集まって来る。そんなハチ北ならではの自然を活かして居心地のよい空間づくりを地域が一丸となって取り組みます。
ハチ北では絶滅危惧種のイヌワシの保護や鹿柵の整備、化成肥料を使わない農業など自然環境を守る取り組みを行っています。この地域にある本来の自然を豊かにしていくことで魅力を高め、それが人を惹きつける観光に繋がる。リゾート観光を軸にしてきたハチ北の地から、持続可能な地域社会を創りあげています。

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