白い砂浜が人気の佐津海岸。海水浴のシーズンにはたくさんの家族連れで賑わっています。
そんな佐津海岸で唯一の浜茶屋として親しまれている「ヤマカフェ」は、山下暢嗣さんが10年ほど前から営業されています。
今年からは夏の期間だけでなく、年中お店を開けるようになり、より多くの方に海を見ながらお茶をしたり食事をしたり、夜にはお酒も楽しんでいただけます。
子供の頃から育ってきた佐津の地域をよりたくさんの人が楽しめる場所にするために、山下さんの挑戦は始まったばかりです。
香美町香住区訓谷の佐津海岸で、山下さんのご実家では長年、砂浜や駐車場の管理を区から任されてきました。
父親は新聞配達店を、母親はスナックをそれぞれ経営しており、忙しくしている中で、山下さんは幼い頃から砂浜のゴミ拾いや、夏場の忙しい時期のお手伝いを当たり前のように行ってきました。
高校を卒業すれば、ほとんどの人たちは、町外に出るのが当たり前。山下さんが学生の頃はそんな空気感もあり、山下さんご自身も例に漏れず、大阪の専門学校に進学します。
そうして、社会人となり大阪のサーフショップで働きながらも、夏場は香住へ戻り忙しい時期をお手伝いする、そんな青春時代を過ごします。
20代前半の頃に自転車で日本一周をしたり、東京での暮らしも経験し、まだまだ色々やりたい気持ちを抱えていた頃に体調を崩してしまいます。そうして、そのことをきっかけに地元へ戻ることに決め、父の新聞配達の仕事を手伝うことになります。
元々、楽しいことが大好きだった山下さん。
香美町に戻った後も「何かをしたい」という想いを持ち続けながらも、結婚や子育てもしながら、仕事に追われる日々が過ぎていきます。
そして新聞配達の仕事を続けて15年ほどした頃に山下さんが子供時代には7軒ほどあった佐津海岸の浜茶屋がたったの1軒になり、せっかく海水浴に来た人たちに楽しんでもらえる場所がなくなってしまっていました。
新聞配達の事業は人口減少や紙からインターネットへの変革が進む中でなかなか厳しい時代になっていくことが予想され、日頃から新たな事業展開を考えていた山下さん。こうなったら自分がやろうと浜茶屋「ヤマカフェ」を立ち上げます。
新たな決断をして準備を進める中、山下さんの父親が脳梗塞で倒れます。そうして夏場の浜茶屋「ヤマカフェ」のスタートと共に父親の新聞配達の事業も引き継ぐことになり、毎日を無我夢中で働きます。
新聞配達のお仕事は、夜中の2時頃に起き、朝6時半頃までには配達が終わる毎日です。
海開きとなる7月から夏休みが終わる8月末までの2ヶ月間は、佐津海岸にとって1年で1番の書き入れ時。週末には1000人近くの家族連れで賑わいます。
新聞配達の仕事もしながら、夏場の浜茶屋「ヤマカフェ」も大忙しの日々を重ね、気づけばコロナ禍の最中には佐津海岸の浜茶屋は「ヤマカフェ」のみになっていました。
暑い時期、佐津海岸の白い砂浜を目の前に、外のテラスにパラソルや椅子を置いて、海水浴のお客様と共に愛されてきた浜茶屋「ヤマカフェ」。忙しいお昼時や夕方までの日中営業と、ときどき民宿に来たお客さまたちとビアガーデンとして夜もイベント営業をしたりもしてきました。
そして昨年、古くからあった小屋を取り壊し、カフェ「ヤマカフェ」が新設されました。
今年の春からは、年中OPENをするようになった「ヤマカフェ」。
営業時間は10時半〜22時頃
水曜日以外は毎日営業を目指しているそうです。
まだまだ新聞配達のお仕事も忙しい中で、山下さんが体力の限界まで両立されている状況に、予約のない夜は開けられないことも時々あるのだとか。夜は、ご予約をいただくのが確実です。
取材日は天気がよかったため、「綺麗な海原を目の前に、コーヒーやお酒を楽しめて最高の場所ですね。」と言うと、「今日はいい日に来たけど、昨日は寒空でした。」と笑う山下さん。
冬の日本海の海は、冷たい風を想起しますが、そんな日は焚き火にあたりながら、おでんと熱燗を楽しむのも乙な空間です。
近くの廃校から、思い出の残った机に椅子、下駄箱や人体模型を引き継ぎ、お洒落さと共にノスタルジックな雰囲気も感じられる「ヤマカフェ」では、まずは地元の人たちが集まる場所を目指します。子どもから大人連れまで楽しめる季節ごとのイベントも随時企画されています。
スナックを長年営んできたお母様の人気メニュー絶品カレーは、地元のお野菜や但馬牛がふんだんに使われ、ヤマカフェでも大人気の逸品です。
子供の頃から地元で商売をされてきたご両親の後ろ姿を見ていた山下さん。そして、海水浴場では多くの観光客を迎え入れてきた山下さんだからこそ、できる地元と外からの人たちの交流拠点。
地域で長年積み重ねられた空気感と、外からの新しい情報が混ざり合い、新たな文化の香りがする場所ヤマカフェで、ぜひゆっくりとした時間をお過ごしください。