
村岡の国道9号線沿い、湯舟川の橋の近くには可愛らしい佇まいをしたお店「菓子創作工房マロニエ」があります。
店内に入るとショーケースには色とりどりのケーキが並び、手土産に丁度いい焼き菓子、焼きたてのパン、そして淹れたてコーヒーも楽しめる喫茶スペースでゆったりとした時間を過ごせます。
店主の松岡昌弘さんは、村岡に来て約40年、この地に店を構え商売をされてきました。今回はその軌跡や経験をお話しいただきました。

村岡に来て40年。喜ばれるお店へ
松岡さんは豊岡市竹野で、代々続く大工の家庭に生まれました。
5人兄弟でお兄さんが10代目の大工を継ぎ、松岡さんは飲食関係の職人を目指し、京都の洋菓子店で修行に励みます。
6年ほど経った頃、豊岡の先輩がお店を出されるということで地元に戻り、先輩のお店を手伝います。
村岡出身の奥さまとの結婚を機に豊岡で暮らしていましたが、先輩のお店は台風による浸水で閉業することになり、奥さまのご実家の使われていない建物があった現在の場所で、自分のお店を開業することを決意します。
松岡さんが31歳の頃でした。
当時の村岡でも、人口減少の波は目に見えており、義父からは「こんな田舎でケーキ屋なんて成り立たない」と反対されます。
奥さまのご実家は、食堂や魚介や食料品を扱う商売を行なっていたので、建物改修にもお金をかけずに挑戦だけでもしてみたい。うまくいかないときは、その商売を手伝うという話で説得し、最終的には応援してもらえる形でOPENに漕ぎ着けます。
本心では、魚屋さんよりお菓子屋さんをやりたいという気持ちが強く、絶対に失敗はしないつもりでした。
ケーキだけではなく、日頃の消費が見込めるパンも焼き、また当時は気軽にお茶ができる喫茶店がそこまでなかったために、カフェスペースも営業します。
土日も休日もなく朝から夜まで常にOPENしているお店として必死に働きました。
その甲斐もあり、たくさんのお客さまが足を運んでくれるようになり、開業6年目には浜坂にも店舗を展開します。
浜坂近隣地域にも洋菓子やカフェが楽しめるお店が当時は珍しく、とても多くのお客さまに喜ばれ、最大で従業員は12名まで増えました。

時代の変化と変わらない想い
村岡店は17年ほど前にリニューアルを行い、今の店構えとなりました。
村岡育ちの2人の娘さんたちは、姉の奈美さんはパティシエの学校へ進学し、三田のケーキ屋さんに勤めた後に、お店を手伝ってくれるようになりました。
今はケーキは主には奈美さんが作られているそうです。妹の美由紀さんは高校卒業後にお店に入り、浜坂店を手伝ったり、店舗の掲示物やSNS発信などを担ってくれています。
浜坂のお店はオープン当日は900名を超えるほどの来店数があり、とても繁盛したお店でしたが、時代とともにコンビニができ、スイーツが気軽にいつでも買えるような世の中になったこと。また松岡さんも段々と歳を重ね、浜坂まで30分以上の通勤時間がかかる場所と2店舗の切り盛りを行うこともなかなか大変になってきて、数年前に30年近くの営業を終え、惜しまれながら浜坂店は閉店しました。
現在は村岡店を家族4人と従業員1名で切り盛りされています。
地元の人が気軽に立ち寄れる場所であり続けたい。原材料が高騰している昨今ですが、なるべくリーズナブルに買えるお菓子を作り続けています。

自分の手でつくるものづくりの喜び
昔から女の子の憧れの職業として名前のあがるパティシエですが、最近は、YouTuberやインフルエンサーなど子どもたちに人気の職業も時代と共に変化しています。
世の中にはいろいろな仕事がありますが、松岡さんは、自分の手で実際のものを作れる仕事が好きなのだと語ります。
義父の手伝いで魚の仕入れに市場に行ったりしたこともあるそうですが、商品を仕入れて売る商売よりも、ケーキやパンを一から作り、その商品でお客さまが喜んでくれるこの仕事に喜びを感じられています。
お菓子職人の腕には火傷の跡がいくつもあったりもしますが、男の子の職人が最近はなかなか増えないことに少し淋しさを感じていたりもします。

村岡だからこそ出来た今のスタイル
昭和40年には1万人を超えていた村岡区の人口は、現在は4000人強まで減少しています。
そんな村岡だからこそ、ケーキだけでなく、パンや喫茶もある今の店舗スタイルを続け、また日頃から立ち寄ってもらえる店舗を目指し週末こそ営業をしてきました。
奥さまのご実家のある村岡に来て、商売を始め、商工会や商店街などいろいろな会議や勉強会にもよく出るようにしていたそうです。
9号線沿いの立地も恵まれていたと話す松岡さん。週末営業しているお店があまりなく、「当時は変わりもんだと思われてた」と笑います。
いろいろな役を受けたり、出店のお声がけなんかもいろいろとしていただいて、お客さまたちにも足を運んでいただいて、村岡ならではの付き合いをしながら商売を続けて来られたのだと感じています。
「菓子創作工房マロニエ」のある村岡区東上には、ここ5年ほどの間に2軒の新たな移住者が来られたそうです。
きっかけは、村岡ダブルフルウルトラランニングで、この地域の人たちの応援や温かさに触れたこと。都会から来た方でもちゃんと地域の付き合いにも合わせてくれて、そういう方は本当に有り難く貴重な存在です。
高校卒業時に、村岡を出てしまう子どもたちも多い中で、松岡さんの娘さんたちは2人ともお店を手伝ってくれています。
今後は娘さんたちのしたい形のお店にしていってもらえばいいと語る松岡さん。自分も体が元気に動く限りは娘たちの力になりたいと考えられています。

人口が減り、町の姿が変わっていく中でも、国道9号線沿いのこの場所で、
毎日変わらず焼きたての美味しい香りが漂う「菓子創作工房マロニエ」。
山々に囲まれた村岡の何気ない日常は、40年の時を経て築き上げた先にあるものなのだと感じました。
Instagram
@marronnier1988

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