こころのままに生きて綴る、香美町ぐらし

香美町町民ライター 木下美月きのしたみつきさん
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大阪市大正区出身の27歳女性が、単身香美町へ移住。「地方移住」というと、地域づくりについての大きな志がある人や、移り住んだ場所で成し遂げたいことがある人がすること、というイメージがあるかもしれません。しかしここ数年は、「地域づくりのため」「地域活動をしたい」という想いではなく、ひらめきや流れに乗ってカジュアルに居住する人も増えています。木下美月さんもその一人。都会生まれ都会育ちの彼女が、香美町に住まいを構えた経緯や、今の暮らしで日々感じることをお伺いしました。

 

「海が好き」その気持ちにしたがって移住

 

地元は大阪、その後東京、香川と住むところを変えてきた木下さん。仕事は、アパレル関係や呉服関係の販売業務。その仕事の特徴から比較的都会的な場所で暮らしてきたといいます。香川県は、大阪・東京よりは田舎寄りでしたが、「なんとなく中途半端で、もう少し住む場所の田舎度を高めたい」と思っていました。彼女の友人の中には、数年前から香美町小代区に移住してきた人もいて、その友人に誘われて遊びに来たのが、香美町との出会いでした。

香美町には香住、村岡、小代の3つの地区があり、暮らしぶりや住んでいる人の雰囲気も、地区によって異なります。その中で木下さんが住んでみたいと思ったのは香住。他の地区に比べると、鉄道があり、スーパーマーケットなども近く、何より海を近くに感じることができるのが魅力でした。香住の海は波も激しく、岩に打ち寄せる波のダイナミックさが彼女好みだったといいます。多くの人が移住前に悩むように、移住したい先でしたい仕事ができるかどうかという課題は彼女の中にもありました。

「でも、どこに住んでいても悩むことはあるし。だったら、友だちも近くにいて、海も近くにあって、ちょっと試しに住んでみようかなと思って」

180度変わった、「住まい」に対する価値観

「WONDER KAMI」の空き家バンクで見つけた物件は期間限定、住める期間が限られていました。そのことも「ちょっと住んでみようかな」という彼女の気持ちを後押しし、また移住後の暮らしの一つのものさしにもなりました。

「住める時期が限られているからこそ、時間の使い方を妥協しないでおこうと思えています。限られた時間の中で今これをすべきかどうか考えるから、無駄遣いもしません」

もともときれいで可愛い暮らしが好きだったという木下さん。都会での物件探しは、お風呂がきれいなこと、バス・トイレが別であることや蛇口の形など、様々な条件がありました。

「でもここでは、不便さもここまでくるとかわいいなと思えてきて。なぜ過去の私は、きれいなマンションがよかったんだろうってちょっと不思議です」

(今の趣味のうち一つは、レトロな喫茶店巡り)

住処に関する価値観が大きく転換。便利さを求め、美しく可愛いものを求めるのではなく、「現状をかわいいと思えるほうが豊か」だと今は感じています。

「なぜか、住む場所が変わったら、満足を得る部分も変わっちゃったみたい。正直、今の暮らしは、家も一軒家で広すぎて手に負えないし、可愛くもなってない。でも小さいことで満足を感じています」

今一番幸せなのは、朝起きて、キッチンの小窓を開けるときなのだとか。誰かに勝つわけでも、お金をかけるわけでもないのに、豊かさに満ち足りる朝のひとときがそこにあります。

 

等身大に生きることで、人生にエピソードを

東京の街を歩くときは、自分が「ダサい」かどうかがとても気になっていました。すれ違う人をジャッジし、また自分もジャッジされているような気持ちになり疲れることもあったといいます。香住に引っ越してきた今は、ありのままの自分を受け入れられているような楽さを感じながら、また別の気持ちも抱いています。

「田舎だから適当でいいや、という気持ちも持ちたくない。服も、こんなの香住で着るとこある? って思うような派手な格好でも、好きだと思ったら買うし着ちゃいます」

田舎だということを理由に、自分の好きなことを我慢しないのも大切なポリシー。自分がものを見る角度を変えると、それまで気になっていた色んな人の目も気にならなくなったと言います。

移住前、「したいこともできないし、私は田舎で生活するのは無理」と話す木下さんに友人が言ったのは「田舎だからこそできることがある」という言葉でした。若い人や新しい技術が都会に出ていってしまうからこそ、少しでもできる人がいたら周りは助かる。周りの人の小さな困りごとを、「手伝えるよ」と手を上げていくことで、小さく役立ち、小さく働くスタイルもある。ゆっくりぼちぼち、あなたがやりたいことを叶えていく姿を見てみたい。そう背中を押してくれた友人の言葉が今彼女の励みになっています。まずは住むところから始め、「このまちに暮らしながら、どんな仕事ができるのか探ってみたい、知ってみたい」と話す木下さん。田舎暮らしを発信したいという気持ちは、はじめからあったわけではありませんでした。でも彼女ならではの目線で香美町での暮らしを書いてみてほしいと、「WONDERKAMI」の「暮らしを綴る」連載の話が舞い込んできたのは、何かをつかむ一つのきっかけになりそうです。

「私は適当な人間だけど、そんな私の発信を見て『これなら私もできる気がする。私ももう少し自由に生きていいかな』って思ってもらえたらうれしい」

人生は一度きり。今27歳の彼女ですが、これからどんな転機があるかはわかりません。家族を持つことになるかもしれない、両親や祖母も年を取っていく。その中で「今は比較的好きに動ける時期。自由にやるなら今しかないんじゃない?」と思って日々を生きています。

「私はいろんなことを諦めて生きてきて、打たれ弱いけれど、もし将来子どもができたら、自分の経験から面白かったことをエピソードトークみたいに聞かせてあげたい。人との出会いが生きてくることはあるし、わくわくすることはいっぱいあると伝えたい」

ご近所付き合いも、香住ならではの暮らし方も、まだ始まったばかりの手探り状態。大雪も、激しい波も、それまでの非日常が一気に日常になっていく不思議を今、彼女は心いっぱいに感じています。新しく始まった香美町での暮らしが、彼女の目にどう映り、どんなエピソードを積み重ね、何を「綴って」行くのか、これからの暮らしにも注目したいところです。

 

 

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