「泳ぎ」で育む子どもの笑顔

寺川理生てらかわみちおさん
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心肺機能の向上や体力づくりのため、子どもに水泳を習わせたいと考える保護者は多いのではないでしょうか。香美町では、毎年5月末から9月まで、香美町立香住B&G海洋センターのプールが開放され、毎週土曜日に小学校3~6年生を対象とした水泳教室が開催されます。今回は、この水泳教室に講師として30年以上関わり続けてきた寺川理生てらかわみちおさんにお話を伺いました。

香美町立香住B&G海洋センター

海とともに育った寺川さんの方向転換

 

寺川さんが生まれ育ったのは香住の柴山地区。家のすぐ裏に海があるという環境で、子ども時代はいつも海で遊んでいました。生き物を捕まえたり水の中に潜ったり、楽しいことはいつも海の中にあり、遊びの中で自然と泳ぎも体得。「毎日絶えず泳いできて、泳ぎには自信がありました」

その後、漁師をしていた親の跡を継ぐため、香住高校の漁業科(現在の海洋科学科)に進学。高校時代は水泳同好会に入会し、甲子園プールで行われた県大会にも出場しました。

 

寺川理生てらかわみちおさん

高校卒業後は漁師として、夏はイカ釣り漁に、冬は松葉ガニ漁にと忙しい日々を送ります。海に慣れ親しんできた寺川さんにとって、漁師はやりがいのある仕事でしたが、転機は30代のときに訪れます。結婚し、子どもが生まれ、「家庭」を顧みたときに、寺川さんの心は変わっていきました。「拘束時間の長い漁師という仕事では子どもたちと関わる時間が少なくなってしまう。もう少し育児に携わる時間がほしい」そう考えていた頃、印刷業を営んでいた弟さんからも「手伝ってほしい」と頼まれ、船を降りることを決意。30代半ばで漁師をやめ、それ以降は兄弟でまちの印刷屋さんとして活躍しました。

 

泳ぎの輪が広がる、地域の水泳指導

水泳教室に関わりはじめたのは40代半ばの頃でした。当時しばらく泳ぐことから離れてしまっていた寺川さんでしたが、学生時代一緒に泳いでいた同級生から声をかけられたことをきっかけに、また泳ぎの世界に戻ってきました。

独学で身につけてきた泳ぎも、香住B&G海洋センターの水泳教室に関わるようになってからは、泳ぎ仲間と切磋琢磨してブラッシュアップ、現在に至るまで数々の大会に出場しています。

泳ぐ楽しさを十分に知り、また子どもが大好きだと話す寺川さんにとって、子どもたちに水泳を教えるのは大切なライフワークの一つです。対象学年は小学校3~6年なので、4年連続で参加する子どももいます。年が変わるたびに少しずつ成長する子どもたちの姿を見るのも、楽しみの一つです。30年以上続ける中で、親子2代に渡って水泳を教えるというケースも出てきました。そして、まちなかで水泳を教えた子どもたちに声をかけてもらえるのも、寺川さんにとってうれしい瞬間です。数十年が経ち、子どもだった生徒さんが大人になっても、声をかけられれば不思議と当時の顔や名前も思い出せるとのこと。子どもたちにとっても寺川さんにとっても、水泳教室の時間は忘れられない、楽しい思い出になっているようです。

 

自信と達成感が子どもたちの大きな成長につながる

 

寺川さんの子ども時代と違い、現代は子どもだけで海に泳ぎに行く機会はなくなりました。水泳教室に来る子どもたちは、泳ぎに自信がある子から、水に恐怖心を持ってしまっている子までさまざまです。水泳教室では複数の講師で関わることで、それぞれのレベルに合わせたきめ細かい指導を行っています。泳ぎに自信のある子は夏の記録会にどんどん出場し、また冬場でも近隣の温水プールに連れて行って但馬地域の水泳記録会に参加するなど、レベルアップも目指せます。

夏の水泳教室では、初回と最後に記録を取りますが、どの子もひと夏で大きな伸びを見せてくれます。自分がどれだけ早く泳げるようになったかを知ることで自らの成長に達成感を覚えて輝く、その時の子どもたちの表情は寺川さんの元気の源です。

 

レンズ越しに見るまちの変化と、水泳教室のもう一つの役割

 

寺川さんのもう一つのライフワークが「写真」。地域の文化協会の活動を写真に収めるほか、地元小学校の卒業写真撮影なども行っています。

母校の柴山小学校に撮影に行くと、水泳教室の子どもたちに出会えるのはうれしいことですが、それと同時にまちの子どもが減ったことも実感すると言います。柴山小学校の現在の児童数は、寺川さんが通っていた頃の4分の1になりました。町内の小学校の児童数はどこも少なく、アットホームで安心感のある環境になった分、進学等で新しい集団に馴染むのに困難を感じることもあるかもしれません。その環境の中でも、水泳教室では香美町の複数の学校から子どもが集まっているので、水泳教室を卒業した子どもたちから「新しい進学先に、水泳教室で知っている子がいた」「(水泳教室で仲良くなった他校の子と)高校で再会して、今でも仲がいいよ」と、寺川さんに報告があるそうです。体力や筋力をつけたり、大きな記録に挑戦したりすること以外にも、水泳教室から子どもたちが得ていることは多くあります。

地域の大人たちから直接泳ぎを学べる、香住B&G海洋センターの水泳教室。4年間、毎年シーズンの間、切磋琢磨し合う関係を培うのも、子どもたちにとって良い学びと思い出になることでしょう。寺川さんたち講師の方々も、また来年、新しい笑顔に出会えることを楽しみにしています。

 

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