矢田川の一尺アユを追いかけて。

矢田川の一尺アユを追いかけて。

海と山が大きく取り上げられることの多い香美町ですが、町のほぼ中央を南北に清流「矢田川」が流れています。アユ釣りがさかんな、中流域に位置する香美町村岡区射添(いそう)地区に事務所を構える「矢田川漁業協同組合」の組合長に川の魅力、釣りの楽しさについて伺いました。ここで生まれ育ち、川遊びが大好きな少年だった組合長の田中さんは、地域の人や子ども達に川遊びを楽しんでもらうため、また生態系を守るため矢田川の保全に奮闘されています。取材は、川沿いの道の駅「あゆの里矢田川」で行い、取材後にはアユを使った矢田川定食をいただきました。 

 

——– どんな子ども時代を過ごしてきましたか

村岡区・射添(いそう)地区で生まれ育ちました。小さな頃から川が遊び場。周りの子ども達も皆そうだった。村岡区射添では昔は川遊びが盛んでした。川魚を“ヤス”という道具で捕まえたり、仕掛けを作ってうなぎを獲ったり。いつ頃、どこへ行けば何が獲れるか遊びながら徐々にわかってくるのが楽しかったものです。今はあまり見かけないのは、危ないからなどの理由で親が止めているのでしょうかね。

——— 矢田川漁業組合の取り組み 

理事8人、事務局1人、監視員12人、監査3人と組合員との協力体制で、矢田川流域に生息するアユをはじめヤマメ、イワナ、ニホンウナギ、モクズガニなどを守るため、カワウ対策(テグス張り)、釣り人の管理、アユの産卵場の造成、河川の清掃、草刈り、普及活動、生物調査などにとりくんでいます。 

今、組合員(釣りができる権利)は約170人。 アユ釣りは許可制となっていて次の種類があります:さお釣り=1種 / さお釣り+網2=2種 /さお釣り+網3=3種 /さお釣り+川に船を出し網8=4種。種別により、金額が違います。

組合員は、矢田川流域に住む人なら誰でもなれます。資源管理のため、4種に限っては親から子どもへの権利移譲を認めています。アユの様子は、川の中が見えやすくなる偏光サングラスを使って、あちこち見て回りアユの様子を観察しています。

 

——— アユの生態について(香住高校とのとり組み)

秋、下流でふ化したアユの稚魚は海へ出てプランクトンを食べ成長し、春にまた川を遡上してきます。川底の石に付いたコケ類を食べて育つのでコケ類の豊富にある中流でさらに成長します。秋に、再び川を下り、下流で産卵。しかし、近年は海水温が高いことや気候変動からか、天然遡上が少ないため、少しでもアユが増えるように、秋に下流の大乗寺橋付近で産卵場整備をしています。矢田川漁協が提供した親アユから香住高校海洋科学科の生徒たちが教育過程の中で、人工授精させ水槽でふ化させて、体長約10cmまでに成育した若アユを翌春、香住で放流しています。

また、この香住高校との取り組みとは別に矢田川漁業協同組合では各小学校区で児童と供に若アユの放流をしており、地元ならではの特徴になっています。

香住高校の水槽で元気に泳ぐ若アユ

射添地区、長井地区の各公民館講座では魚取り、網を使ったアユ取りの体験ができる講座があります。 

また調べているとおもしろいことに、川を間違えて遡上するアユもいます。放流していないので、アユがいるはずのない佐津川で見られることがあるのです。

漁業組合と香住高校、地元の小学生と共に行った放流
漁業組合と香住高校、地元の小学生と共に行った放流

 

———- 子どもの川釣りのヒント

大人の釣りは奥深いですが、初心者や子どもの場合は、川の流れがゆっくりの「川の縁」の手前のあたりが狙い目です。石の裏側には川虫がいるのですが、川魚はそれを餌としているのでその辺りで釣れることが多いです。それには組合員の権利が必要ですが、高校生は千円、中学生までは無料なので、ぜひお子さんも一緒に川釣りに親しんでほしい。ダムの放流もあるし、速い流れ、急に深くなる場所には行かないなど、川の状況は一定ではないので注意は必要ですが、自然が相手なのでね。

どぶ釣り体験をする子ども達
どぶ釣り体験をする子ども達

 

——— アユ釣りの醍醐味は

天然アユが減っていく傾向でしたが、2021年はなぜか7年ぶりに多かったです。毎年、アユの流下調査を国の補助金を利用して同じ場所で調査します(午後6時から9時まで同じ場所で網を受け、30分の間に何匹アユが網に入るかを数える)2021年は例年より早い春から天然のアユの遡上が活発で、下流ではシーズンを通して良く釣れ、良く取れました。「一尺アユ」といい30cmもの大きなアユも釣れたとの声があちこちで聞かれ、印象に残る大漁のいい年でした。

釣り客の釣ったアユ
釣り客の釣ったアユ

やはり海から上がってくる「海産」は養殖と違い、闘争心があり元気で力強い。このようなアユが相手だと釣り人にとってはおもしろいものです。また、食べても運動量の多い天然アユは歯ごたえがあり美味しいです。

取材後に頂いた「矢田川定食」。道の駅「あゆの里矢田川」では矢田川で釣れたアユを食すことが出来ます。

アユの塩焼きにアユの天ぷらもついて、さらに地元の野菜や味噌を使った付け合わせのお味も良くて大満足でした。

道の駅「あゆの里矢田川」で提供されている「矢田川定食」
道の駅「あゆの里矢田川」で提供されている「矢田川定食」

 

インタビューを終えて

小さい頃から親しんできた矢田川、釣りや網業を通して、変化していく生態系を間近に感じている田中さん。地元・矢田川のため、川や釣りのことをよく知る自分たちが「支えなければ」という使命感ある姿に心打たれました。そして一尺アユの話をされる時の満面の笑顔には、釣り好き少年の遊び心もあふれています。矢田川漁協さんのような存在は、普段メディアに出ることはあまりないですが、このような方々がいてくれるから矢田川の美しさ、釣りのルールなどが、地域や子ども達へ伝承されているのだと感じ入りました。道路に並行して走る矢田川のきらめきを、改めて眺めてみてくださいね。銀鱗のアユが跳ねているかもしれません。

2021.11.17 筆者:香美町町民ライター)

 

1日限定オープン!Glassカフェ

あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。

今年の香美町は、素敵なイベントからスタートです!

 

1日限定オープン!Glassカフェ

日時 1月10日(月・祝)10:00~16:00
場所 レンタルスペースglass(香美町香住区香住1584-1)

どなたでもお気軽にお越しくださいませ。

道の駅神鍋高原から村岡ファームガーデンまでをバスで!

2021年12月6日(月)~12月24日(金)までの平日のみ、道の駅神鍋高原から村岡ファームガーデンまでを結ぶバス「蘇武トンネル線」が運行します。(※全但バスによる実証運行の一環です。)

帰省や観光など、この機会にぜひご利用ください!

詳しくはこちらから(外部サイトへリンクします)

 

「鳥取来楽暮カフェ」Zoom開催します

 

 

  

 

シリーズで開催されている鳥取来楽暮カフェ「鳥取の仕事と住まい」。

第3回目は麒麟のまちの場合ということで、香美町も参加します!

 

日時:2021年12月11日(土)13:00~16:00

 

Zoomによるオンラインで、大阪会場(鳥取県関西本部交流室)からの相談も可能です。参加は無料ですが、申し込みが必要ですので、詳しくはこちら(外部サイトへリンク)をご覧ください。

※オンライン参加の場合、通信料はお客様負担となりますのでご了承ください。

 

チラシはこちら

 

 

「ひょうご田舎暮らしカフェ」に参加します

 

香美町が「ひょうご田舎暮らしカフェ」に参加します!

お近くにお住まいの方は気軽にお越しください。

日時:2021年12月18日(土)13:00~17:00

場所:グランフロント大阪北館

田舎暮らしや移住の相談にお答えします。参加は無料ですが、申し込みが必要です。

申込フォームは「こちら(外部サイトへリンク)
電話での申し込みは078-341-7711(内線4889)

チラシはこちら

 

 

香美町動画コンテスト入賞作品発表!

今年度、香美町では新たな取り組みとして、「香美町動画コンテスト」を実施し、香美町の暮らしや営み、自然の豊かさなどの魅力が伝わる動画を募集しました。

その入賞作品が決定しましたので、ぜひご覧ください!

「香美町動画コンテスト」入賞作品発表!|https://www.town.mikata-kami.lg.jp/www/contents/1634637517009/index.html

 

 

西尾工務店の一級建築士でありながら、 自然の中に最高の遊びを求めて『おもろく生きる』。

西尾工務店の一級建築士でありながら、 自然の中に最高の遊びを求めて『おもろく生きる』。

 地元工務店の社長でありながら、カヌーを作ったり、きのこ狩りや、罠で仕留めたイノシシや鹿のお肉を美味しそうに食べていたりと、とにかく『面白い人』がいる!という情報を元に西尾さんを訪ねました。  
噂通りの『面白い人』!
楽しむことが一番の原動力。行動力と探求心、検証の姿勢が基本にあり、たくさんの引き出しを持ち、
仕事も趣味も何でもない時間さえも、「全て楽しい!」という西尾さんに、自然と仲良くなる『遊び』についていろいろ教えてもらいました。

 

『おもろく マジに 美しく』

 兎塚(うづか:村岡区兎塚地区)で生まれ育った西尾さんは、山育ちのためか海に対する憧れが強く、子供の時は年に一度ほど親に連れられて行く海で、海の物をなんでもかんでも拾って帰っていたそう。
「川魚も好きで、橋の上から一日中でも魚の様子を見ていられるほど。釣りは小さい頃から好きでした。親の教育方針から何かほしいと望んでも買ってもらえたわけではなかったので、その頃からなんでも自分で作るしかない!と自分でいろいろ試行錯誤して作っていました。欲しいものは自分で作る!そんな子どもでした。」    

 建築の勉強のため地元を離れ、大阪で就職。そこで学んだのは、仕事の中にも『遊び心』が大事ということ。 西尾工務店のホームページに掲げられてるモットーは『おもろく マジに 美しく』。   
『バカなことを真剣に考える。でもクオリティーは高く。』これは仕事だけじゃなく、人生全てにおいてそうで、『おもろく マジに 美しく』が全うできれば、人生最高だと思う。」と西尾さん。  
変わった依頼のお仕事にも、難しい依頼にも真剣に向き合って、アイデアやひらめきで様々なものを作っておられます。きっと西尾さんにとって不可能なんてないのかも。どうにかして可能になるように考えてくれそうな柔軟性があります。
 「遊びも仕事も全て同じ感覚になってきて、ボーダーラインがなくなってきている(笑)。だから、全てが楽しい。全ての時間を楽しんでます。」

西尾さんの本業 西尾工務店のお仕事風景

 

「ここって何でもあるなぁ!」自然の贅沢さは住んでみてじわじわと実感。

 毎日山に入り、自然が身近にある西尾さんですが、自然の贅沢さに気が付いたのは再び村岡に戻ってきてからだそうです。
 「少しずつ、じわじわと。山がすごくきれいだったり、夏の夜の涼しさだったり、住んでいてじわじわと良さを感じてきました。自然がこんなにも贅沢だったんだと気が付いたんです。
今、都会に出ている息子が帰省したときに『ここって何でもあるなぁ!』と言ったことが全てだと思います。自然の中には宝物がいっぱいあるんです。」

西尾さんの撮影された美しい兎塚の風景

 

ハンター(狩猟)をして、山の中の生態系を深く知り、より山が好きになった。

 罠の狩猟免許を取ったのは、そんな自然の面白さをもっと楽しみたいという思いから。
「釣りは小さい頃から好きだったし、山のもの、天然の食べ物に興味があったので、イノシシやシカのお肉を食べたいなぁっていうところからはじまりました。
「美味しい肉を食べたい!」なら「自分で仕留めよう!」と、罠の狩猟免許を6年前に取りました。

 罠は山に10箇所ほど仕掛けているので、毎朝6時から山に入って、山の中をうろうろと巡回しています。
毎日山に入っていると、だんだんと動物の習性や土の削れ方などわずかな変化で、獣の通り道がみえてきて、今はあの手この手のだまし合いを楽しんでいます。」

  初心者にはかなりハードルが高そうな狩猟ですが、なんと止め刺しなど、狩猟の細かい手ほどきは意外にもyoutubeなどのインターネットで勉強したそうです。
近年、香美町では急激にシカが増え、農作物の被害なども増えています。野生鳥獣と人が共存していくためにも、狩猟は重要な役割を担っています。実際、この6年間で若い人の狩猟人口も増えてきているそうで、狩猟を始める若い女性も増えてきているとか。 移住してきた人が免許を取るのも珍しくなく、獣害駆除での狩猟は収入源にもなるので、これを生業にするのもありかもしれません。

西尾さんの使用されている罠がこちら

 

香美町の自然はプライスレスもいいところだ!

 「山に入っていて思うのは、自然の生態系の豊富さ。雪も多い地区で、標高も高い、朝晩の寒暖差もあり、そういう自然的な要因も揃ってか、村岡や兎塚の食べ物はすごくおいしいです。
 それに美方郡のシカは美味しいと思います。山の中にいっぱいある笹を食べて、山のものをたくさん食べているから。
  アナグマやイノシシ、シカ、ハクビシン、タヌキ、ウサギ。山の中には市場に出回らない面白いものがいっぱいある。
 山菜もそうだし、きのこなども。いろいろ獲って食べました。鹿カツ丼を作ったり。
自然の中にある面白さ、自然の生業。天候によって味が違ったり、真っ赤でいかにも毒キノコっぽいものが食べられたり、きのこは冷凍した方が風味がまして美味しくなるとか。
もう、車で3分で非日常の世界が広がっている。すごく贅沢なことで、都会の人から『羨ましい!』といつも言われています。香美町の自然はプライスレスもいいところだと思う!」

  西尾さん×山での話は尽きることがありません。
「みんな狩猟の話にはすごく食いつくんです。クマの話やハクビシンうまい!とか(笑)建築の話させろーって思います。」  

 シカやイノシシ、山のものにも実はそれぞれ旬があって、秋の繁殖期直前のイノシシは脂がのっていて本当に美味しいのだとか。
 でも山の恵みをいただいている立場。キノコなど乱獲すると山が怒っているような気がするので必要な分だけいただくようにしているそうです。
山を愛しているからこその、自然との共存の仕方、楽しみ方を学ばせていただきました。

手作りシカ肉のローストベニソン
収穫したキノコ

 

初めてのカヌー作り。

何でもやってみたら、できないことはない!新たな挑戦が仕事にもいかされている。

 西尾さんの挑戦のひとつにカヌー作りがあります。
どんな経緯でカヌー作りが始まったのでしょうか? 

 「2007年、旧兎塚中学校の総合学習として、学校林の間伐材を利用して何か作れないだろうかという話があり、作ったことないけど、カヌーを作ってみよう!と思い、そこから図面を取り寄せて、とりあえず試作してみることに。
最初はわからなくて失敗もたくさんしましたが、なんでもやってみないとわからない。
とりあえずやってみる!そしたらできないことはないなぁと思えました。このチャレンジは仕事にも生かされることがあったりして、自分にとってもすごく大きな経験になりました。」

  雪の残る山で間伐材の伐採から中学生も関わり、西尾さん指導のもと、4m80cmのカナディアンカヌーを3つ作ることに成功。
生徒だけじゃなく、先生、保護者(PTA)、地元の人(区長さんや製材屋さんなど)みんなで協力してものづくりの楽しさをみんなで分かち合いながら作った最初のカヌー。

「やっぱり、できたら進水式もしたいなぁと、矢田川まで運んで中学生と進水式もしました。みんなすごく喜んでくれて、本当に嬉しかった。」

学校林の間伐材で、自分たちでがんばって作ったカヌーに乗るという体験。中学生にはとても貴重で素晴らしい経験になったことでしょう。

その完成したカナディアンカヌーは今でも村岡区町民センターと、木の殿堂に展示してあるとのことです。 

その後もカヌープロジェクトは続き、建築士会の事業でチーム戦で5.1mものカヤックを作ったり、香住高校の生徒さんと授業の一環でカヌーを作ったり、その後も海のゴミ拾いのボランティア活動や進水式を企画したり、いろいろな仕掛けも盛り込みながら、地域とのつながりをカタチにされてこられています。

 「カヌーを作ってる時はみんな夢語るんですよねー。男女で「カヌー作り」したら婚活にもなる。回数を重ねて共同作業することで、頼りになるところが見えたりして。カヌーを作ることで、面白い人もどんどん集まってきて、交流の場にもなった。何度も訪れて制作するので、交流人口を増やすのにもすごく向いていると思いました。」

プライベートでもカヤックを作る西尾さん。どんどん進化して、生け簀のあるカヤックを作って自分のつくったカヌーで釣りを楽しんだり。 と、もう夢の世界です!かっこよくて羨ましすぎます。

「3つの町が合併した香美町、流れている川が矢田川で繋がっていく、その川をカヌーで下るのも面白そう。」 今年もカヤックをトラックに積んで、海まで出かけて楽しまれたとか。いつか矢田川カヌー下りも実現して欲しいです。  

 

本当の贅沢は無限大な遊び場がすぐそばにあること。

 プライスレスな自然。遊び方は無限大で、本当の贅沢とはこういうことなんだと改めて感じました。
 最後に田舎遊び、田舎を楽しむコツを聞いたところ『貪欲に探すこと』と教えてもらいました。
探せば面白いことがいろいろ見つかる、そんな宝の山をいろいろつついてみる行動力と、好奇心。
楽しいことは自分から探しにいかないと。でもきっと見つかる。そんな香美町での暮らし方をたっぷり教えてもらいました。
本当に楽しんでいる人のキラキラした目で語る『面白い人』。まだまだ伝説を作ってくれそうです。ありがとうございました!

 

<著者:香美町町民ライター 中村 美和子>

 

香美町役場企画課調べ / 狩猟免許などご興味がある方はこちらへ

山と森を愛するレンジャーたちへ兵庫県猟友会

http://hyogo-ryoyukai.sakura.ne.jp/

スッポンに導かれ始まった、新しい暮らし

スッポンに導かれ始まった、新しい暮らし

三重県からIターン移住した村上さん。新しい仕事に思いをかけて、香美町にやってきました。長年培ってきた板前のスキルを捨てるのも悩まなかったのは、スッポンのおかげでした。移住後の村上ファミリーは自然のちょっとした変化にも感動し、日々の暮らしを楽しんでいます。情報過多の現代、自分のアンテナを大切に人生の選択していく潔さを感じました。

 

———–スッポンの養殖をするために、小代に来られたとのこと、きっかけはなんだったのでしょう?

三重県桑名市の出身で、寿司・割烹料理店で板前として長く勤めていました。

20代の頃、馴染みのお客さんにご自宅で闘病中の方がおられました。店に来られたある日、スッポンが食べたいとのご希望があり週1回のペースでスッポン料理を出していたところ、目に見えて顔色が良くなり回復していかれたのです。他の要因もあるかもしれませんが、身近なこの体験でスッポンは身体に良いだけでなく、それ以上の高機能な成分があるのだなと驚きました。

そんな時にメディアで取り上げられた兵庫県の増田さんの記事をたまたま読みました。やはりスッポンの威力は大したものだなと、思ったものでしたが、当時はそこまででした。

 転機は、そんな経験の何年もあとに起こったコロナ禍のあおりを受けて勤めていた店が閉店してしまい途方に暮れていた時でした。

板前としての毎日は、一日中外の空気に触れることなく、人の相手ばかりです。仕事は朝早く不規則でまだ小さい3人の子どもたちや家族ともすれ違いでした。もともと自然や生き物が好きでしたし、ここで思い切って環境を変えてスッポン養殖に携わってみたい、と増田さんのおられる香美町へ連絡してみました。ダメでもともと、何かきっかけがあればと思ったのですが、たまたま今年から地域おこし協力隊にスッポンを扱う内水面組合の枠が始まる、とのことを伺いました。もう、びっくりで、家族とも相談しましたがすぐ応募しなんとか隊員として雇ってもらえました。

スッポンの卵の管理を行う村上さん

 

—-コロナ禍の打撃は辛いものでしたが、そこで奮起して全く別の道に飛び込んだわけですね。暮らしの違いは?

 偶然が味方してくれましたね。また来てから知ったのですが、増田さんも昔は寿司職人であったとのことで、共通点があり嬉しかったです。 

 住居については、何も手がかりの無い香美町でしたが、空き家バンクで家族5人が住める広い一軒家が見つかりました。村岡高校の近くにあり比較的便利な場所ですが、自然の風が気持ちいいので開けっ放しが多いです。ちぎれ雲が山の側でゆっくり動く様を眺めても、ホタルが家まで入ってくる灯を追っても、「毎日、こんな幸せでいいのかな」と思うくらい、暮らしの面では満足です。

 趣味も変わりました。以前はゴルフや旅行でしたが、今は興味がなくなり自然と触れ合うのが気持ちいい。ニワトリやうさぎを飼って世話したり、畑で季節の野菜を作ったり。近所の方に網の張り方などコツを教えてもらい、親切にしていただいています。同じ三重県出身の妻もこの環境を楽しんでいて但馬をあちこち出歩いて、好きなスポットを見つけて教えてくれます。

 

村上さんの奥さまの書かれた記事はこちらから↓

https://kamicho-ijyu.com/cms2/lifestory/9311/

 

——スッポンを育てる経緯について、経験40年の内水面組合長・増田さんに伺います。

 

 まず室温を一定にした、静かな部屋に親スッポンのオスとメスがいます。ここで卵が産まれたら、すぐ横にある温度管理をした産卵箱(孵化所)にそっと運びます。ここで孵化した赤ちゃんは25度の水温にした水槽に入れてやります。赤ちゃんは、人間の指の第2関節くらいしか無いですが、一定の大きさまで育つと次は豊富に湧出する温泉水を張ったビニールハウスへ移動させます。

同じ環境で同じ時期に産まれても、スッポンは個体差もあり傷つけあわないよう気をつかいます。噛み付くし、身体能力が高く素早く動くので、たまにハウスから脱走する輩もいます。

生まれて数日のスッポンの赤ちゃん

ビニールハウス内の「エサ台兼甲羅干し台」のスッポン

 始めた頃は19度の温泉水でしたが、色々試す中でスッポンは水温が30度あると約1年で出荷できる大きさに生育することがわかりました。温度を上げるためにボイラー設備も試しましたがこれは温泉水の成分が機械を破損させるし、燃料費も高額になり現実的ではなかったですね。そこで現在は温泉水が26度まで上がるビニールハウスで育てていますが出荷までに3年かかる。理想の水温30度までのあと4度を無理なく上げるため、太陽光はどうかと研究中です。4度の壁を超えられたら出荷率は大きく延びるはずです。

ビニールハウス内の養殖場

湧き出る温泉水を利用 プラス4度欲しいところ

 

 一度に産まれる卵が2,000個くらいですが、孵化するのは約半分です。しかしその後は成長や個体差に合わせて環境を変えても、ほぼ全て3年で出荷できるまでに成長しています。最後は、泥抜きのために清水に入れて生きたまま出荷しています。(取引先は地元の料理屋、鳥取、神戸など)

丹精込めて育てているので単に売り上げをあげるだけでなく、顔の見える常連さんを作りたいですね。

一つ一つ手作りのマムスポニン

養殖したスッポンで創り出される美味しそうなすっぽん料理(写真提供:料理旅館 大平山荘)

 

大平山荘(おおなるさんそう)邊見裕作さん 直子さんの記事はこちらから↓

https://kamicho-ijyu.com/cms2/oonaru/

 

 

——手間のかかるスッポン養殖ですが、実際働いてみてのご感想と、抱負を村上さんに伺います。

 増田さんは、40年にわたりスッポンを卵から養殖されそのご苦労を思うと頭が下がります。事務所横の施設ではチョウザメ養殖もされておりチャレンジ精神旺盛で、本当にタフですね。忙しくてもいつも笑顔でゆったりと接してくれます。

現在の私の仕事は、スッポンの卵の世話、老朽化してきた施設の修繕、水温の管理などであちこちに動き回っています。隊員の任期を終えたらこちらに雇ってもらいたいと思っているので、地域おこし協力隊の任期3年の間に事業を軌道に乗せたいです。今は微力ですが少しずつ増田さんから技術を伝授していただき片腕になれたらと思います。

 

 また、マムシとニンニク、スッポン等をブレンドした無添加の「マムスポニン」というサプリメントも長年製造していますが、これはニンンクの皮をていねいに剥くなど手間と時間をかけて粉末にしたものをカプセル状に仕上げた商品です。身体にやさしく健康増進、美容にも良いので販路拡大も考えていきたいです。

 増田組合長、これからもよろしくお願いします!

(著者:香美町町民ライター)