地域のサードプレイスを作り、若い世代の日常をもっと楽しく

地域のサードプレイスを作り、若い世代の日常をもっと楽しく

香美町のまちづくりに、若い人の声を反映させたいという思いから生まれた会議、「香美町若者まちづくり懇話会」。町内の20代から40代の方を中心とした集まりで、月に一度まちづくりをテーマに意見を出し合い、2年間かけてとりまとめたものを提言書として町に提出しています。現在の具体的な活動内容や「香美町若者まちづくり懇話会」の目指すものなどを、会員の正垣亮治郎さんにお伺いいたしました。

 

地域の方の「ありがとう」が大きな喜びに

正垣さんは香美町の村岡区出身。村岡高等学校を卒業後、県外の大学に進学しましたが、「卒業後は地元香美町で働きたい」と進学時から思いを定め、2017年、香美町役場に就職しました。正垣さんが地元での就職を志したことには、どんな背景があったのでしょうか。

(正垣亮治郎さん)

 

「高校在学中に、吹奏楽部員として地域の施設やマラソン大会等で応援の演奏をする機会が多くありました。地域の方に喜んでいただけたことがうれしく、またこのまちに帰ってきたいと思うようになりました」

高校生として地域と深く関わるうちに地域への愛着が高まるからか、Uターンする同世代も少なくないのだとか。

「同級生も結構帰ってきています。でもその反面、町内に住んでいる知らない同世代の人と知り合う機会はあまりないなと感じます。例えば、ふらっと立ち寄れる居酒屋や、若者が集まる場所があれば、出会う機会も増えるのかなと」

新しい出会いとコミュニケーションの場があればと思っていた正垣さん。それを自分たちの手で作るきっかけとなったのが「香美町若者まちづくり懇話会」でした。

 

「よりみち書房」で「aoite187」を若者のサードプレイスに

(aoite187 外観)

 

「香美町若者まちづくり懇話会」のメンバーは、1~2年ごとに更新されます。これまで「香美町若者まちづくり懇話会」の活動としては、観光マップに載らないようなおすすめスポットをまとめた「香美町ええとこマップ」の作成や、ジオパークの風景と背景を遊びながら学べる「香美ジオかるた」の作成提言などを行ってきました。

「今回の活動で何ができるかと話し合った結果、『サードプレイス』として、自宅でも職場でもない第三の居場所を町内に作れたら良いなと考えました」

ここに来たら人に出会えて、ほっとできる。そんな空間を作りたいという正垣さんたちの拠点の一つが、香美町香住区矢田にあるレンタルスペース「aoite187」です。会議や集まりで使用する他、月一回程度、ブックカフェイベント「よりみち書房」を開催し、地域の方が立ち寄りお茶をしながら読書や懐かしいゲームなどを自由に楽しむ場所を設けています。

(「よりみち書房」開催時の「aoite187」)

ただ場所を提供するだけでなく、興味を持って来てもらえるよう、また共通の趣味を介して新しい出会いが生まれるよう、テーマを決めたイベントも開催。7月には正垣さん自身もメンバーとして所属するバンド仲間を招き、ライブや楽器の演奏体験などを行いました。

「香住高校も近いので、高校生も大歓迎です。村岡高校からは少し距離がありますが、『大人に車を出してもらえるよう頼んでみよう』と思ってもらえるような、魅力ある空間づくりややイベントについて工夫していきたいと思っています」

(「よりみち書房」ではゆったりと過ごす若者たちの姿が)

 

SNSを通じて「よりみち書房」の存在を知り、懐かしい知り合いとの再会や新しい出会いが訪れるなど、「香美町若者まちづくり懇話会」の活動は、徐々に地域に浸透しています。

 

 

「香美町若者まちづくり懇話会」の活動で、香美町に暮らす若者の日常をもっと豊かに

(「aoite187」の向かいには香住高校)

 

「香美町には面白い人がまだまだたくさんいると思います。音楽だけでなく、料理、釣り、アニメなどなんでも……得意なこと、好きなこと、ジャンルごとに集めていったら面白いことができそうだなと感じています。地域で点々と行っている活動もギュッと集めて、その中で知らなかった人と知り合えるなど、そういう出会いの場が提供できたらと思います」

自身が香美町に帰ってくることに迷いがなかったように、若い世代もいい出会いに恵まれることで、自然と帰郷への思いが芽生えるのではないかと語る正垣さん。

(2019年7月に開催された音楽イベントの様子)

「高校の吹奏楽部の活動でもそうでしたが、地域の方が『ありがとう』と言ってくれることが大きな喜びでした。人に喜ばれることはなかなか難しいですが、自分の好きな音楽で人に喜んでもらえたという体験は、生きがいに直結するものだと考えています。学生や若い人も好きなことで人と繋がれたら『自分はこれで良いんだ』と自分を肯定できるし、地域に居場所も感じられるのではないでしょうか」

香美町に住む若い世代が、日常生活への満足度を更にあげていくためのサードプレイス。出会いのある居場所、自己表現の叶う居心地のいい空間づくりに、今後も正垣さんたち「香美町若者まちづくり懇話会」のメンバーは取り組んでいきたいと語っています。。

余部の歴史と新しい魅力を道の駅・空の駅から発信!

余部の歴史と新しい魅力を道の駅・空の駅から発信!

 

1912年の開通以降、香住で暮らす人の生活の基盤でありつづけた余部鉄橋。高さ41.5mの鮮やかな赤い鉄橋は、交通の便としてはもちろん、写真撮影や観光のスポットとして幅広く親しまれてきました。現在は防風壁を備えたコンクリート製の橋梁に架け替えられ、旧橋梁と同じく空を行き交うような列車の風景が楽しめます。橋梁を臨む橋下のスペースに2012年にオープンしたのが「道の駅あまるべ」です。地元から観光客まで多くの方が楽しめる道の駅あまるべの魅力と余部の歴史について、駅長の川本博文さんにお話を伺いました。

(余部橋梁下にある道の駅あまるべ)

 

余部鉄橋の歴史と、川本駅長のふるさとの思い出

川本さんは余部生まれの余部育ち。仕事の都合で香住を離れた後Uターンし、2019年4月に「道の駅あまるべ」の駅長として着任しました。

(道の駅あまるべ 駅長 川本博文さん)

 

「鉄橋があった子供の頃と、風景は大きく変わりました。2010年に橋梁が架け替えられてから、2012年に道の駅あまるべが開業し、2013年には余部鉄橋『空の駅』が、2017年には空の駅への直通エレベーターの『あまるべクリスタルタワー』も建設され、リピーターのお客様からも『来るたびに風景が違うね』と声をかけていただきます。」

余部鉄橋の歴史はまさに香住に住む人のインフラの歴史でした。余部鉄橋が開通したときには餘部駅はなく、鉄道の利用者は列車の合間を縫って余部鉄橋を渡り、隣の鎧駅まで歩いたといいます。1959年に餘部駅が開業してからは駅までの山道を登りました。地域の人の通勤・通学を支え続けた鉄橋は、駅長の川本さんにとっても生活の一部でした。

(余部クリスタルタワーと、旧橋梁の橋脚)

 

「以前は風速20m/sで運行規制がかかりましたが、現在の橋梁になってからは風速30m/sまでは運行できるので、運休が減り列車がスムーズに運行するようになりました。鉄道ファンの方が列車が来る時間を見越して写真スポットでカメラを構えている様子もよく見られます」

 

地域の人達のバックアップを受ける美しい景観の道の駅あまるべ

 

(余部鉄橋「空の駅」から海側を臨む風景)

 

「子供の頃は景色を意識して見ることは少なかったのですが、余部に帰ってきて改めて見ると、春の新緑や秋の紅葉と橋の風景が本当に美しいことを実感します」

新橋梁に架け替えられてから、JR餘部駅側の橋脚が3本現地保存され、展望施設として生まれ変わったのが2013年にオープンした余部鉄橋「空の駅」。トワイライトエクスプレス瑞風などの写真映えする列車は特に人気で、季節ごとに変わる風景を追いかけ、お客様が何度も訪れるスポットです。余部鉄橋「空の駅」から見える海や山も圧巻ですが、夜になると漁火が美しく見え、また海側から見たクリスタルタワーのライトアップも川本さんがおすすめするポイントです。

(余部鉄橋「空の駅」ではかつての線路も保存されている)

 

道の駅あまるべは、バスツアーなどの団体の方が写真撮影や買い物・食事のために訪れる人気スポットです。また、余部鉄橋「空の駅」駅長のケヅメリクガメの『かめだそら』ちゃんのお目見えタイムもお客様に好評です。1日3回、概ね9時30分から10時30分に朝食、13時から14時が駅長業務としてのお散歩、16時から17時が夕食となっており、ゆったりした愛らしい動きに癒やされます。

 

 

『かめだそら』ちゃんの名付け親は地元の幼稚園児です。また、2019年に道の駅あまるべの外壁に新設されたそらちゃんをモチーフにした時計からは、一時間おきに幼稚園児が歌う童謡「うさぎとかめ」が流れます。

(道の駅あまるべ外壁にある、そらちゃん時計)

 

そして道の駅あまるべは、観光客だけでなく地元の方が日用品を買いに来るなど、地域の方の暮らしに欠かせない場所でもあります。

「道の駅あまるべは、地域の方から本当に愛され、支えられています。よく買い物に来てくださるだけでなく、花壇の草とりや公園全体の掃除など、従業員だけでなく地元の方もが担ってくださっていて、助けていただいています。地元からの温かい声を受けていますので、感謝の気持ちを込め、地元の方から商品のリクエストにはお答えできる範囲で品揃えをするようにしています。」

 

 

ランチ、お土産…新しい魅力を続々発信!

(道の駅向かいに旧橋梁の展示も)

 

多くの方から愛される道の駅あまるべ、余部鉄橋「空の駅」。おすすめの楽しみ方や人気商品を川本さんに伺いました。

まず、お客様に人気があるのが、地元産の野菜。また余部鉄橋の鋼材を使ったペーパーウェイトなど、余部ならではの商品は観光客のお土産にも人気です。

(道の駅あまるべ限定の余部鉄橋鋼材グッズ)

(余部ならではのおみやげコーナーも ※消費税の改定にともない、商品価格が変わる場合がございます)

 

「余部鉄橋の歴史を知れる情報コーナーで有意義な時間も過ごしていただけますし、レストランは地元の魚や野菜にこだわり、定食メニューをご用意、観光に来られた方にご好評をいただいています」

(定食「鉄橋御膳」。季節によってメニュー変更有)

 

「一つ一つ魅力を増やしていくことで、一度来た人が『また来ようね』とお友達を連れて来てくれるような場所にしていきたい」と意気込みを語る川本さん。余部の魅力をこれからも様々に発信していきます。

 

  • 店名
    道の駅あまるべ
  • 所在地
    兵庫県美方郡香美町香住区余部1723-4
  • TEL
    0796-20-3617
  • 営業時間
    9:00-18:00 ただし7月・8月は9:00-19:00
  • 定休日
    なし
  • web
海産物、豊かな海、人、香住の魅力を広げたい

海産物、豊かな海、人、香住の魅力を広げたい

旧・老舗料亭「岡見亭」。香住海岸を一望できる絶好のロケーションにあり、木造平屋の建物の中は広々としたスペースです。2018年、この絶景スポットがICTオフィス・レンタルスペースとして21年の時を経て復活しました。香住の質の高い海産物などを多くの人に届けるためオープンした、ネットショップ「舫(もやい)」をはじめとし、ここが新たに人と人をつなげるスペースとして生まれ変わったのは、Iターンをしてきた池本大志さんがこの場所に出会ったことがきっかけでした。


(池本さんのオフィスのあるレンタルスペース岡見 外観)

 

質の高い海産物と香住の人の人柄に惹かれて

池本さんは大阪府高槻市在住時に自然食品を扱う団体に所属し、配達、企画など幅広い分野で経験を積みました。企画の仕事の中では海産物のバイヤーとして活躍。香美町の中でも、日本海に面し水産業が盛んな香住はその取引先の一つでした。香住の質の良い海産物と関わるうち、「いつか魚の美味しいところに住みたい」という気持ちが高まり、思い切って2017年1月に香住に移住しました。


(池本大志さん)

 

「香住の人は、優しく気前のいい人が多いという印象。この人達と繋がりながら、質の高い海産物を欲しい都市部の人に届ける仕事ができたらと考えました。」

香住での暮らしは、都会の暮らしと大きく違いました。まず、季節によって漁師さんの働き方が全く変わり、まちが全く違う風景になること。漁がないときは別の仕事をしながら、季節に合わせて暮らす香住の海に生きる暮らし、果敢に漁業にチャレンジする強い精神に、多くのことを学び、多くの人に香住の人や海産物と出会って欲しいという思いがますます強まりました。

香住の海産物や作品を多くの人に届けるネットショップ「舫」オープン

香住に移住し、まずは現場を知りたいと考えた池本さん。水産加工の会社に所属し、情報発信を中心に海産物を届けるべく活動していました。そんな池本さんに訪れた第2の転機もまた、人・場所との出会いでした。

「ものづくりをしている方々と繋がり、海産物だけでなく、ここで出会えた人が作っているもの、自分がいいなと思えたものを集めてセレクトショップをできたらと考え出すと止まらなくなって」

ネットを使ってセレクトショップを開くことを構想し、拠点を探していた池本さんは、香美町のすすめるICTオフィス開設支援の候補地だった「旧岡見亭」と出会います。

「景色も物件も素晴らしい、ここをオフィスにできるというのは、まさに千載一遇のいい話を頂けたなと思いました。だからこそ大切に使いたいと強く思いました。」


(レンタルスペース岡見から臨む海)

 

所有者の方たち向けてのプレゼンを行い、旧岡見亭を使用できることになった池本さん。バイヤーとして培った目を活かし、香住の海産物や手作り品などをセレクトしたネットショップ「舫」を開設しました。「舫」の由来は、「(海産物や作品を)提供する人と、受け取る人を結びつけたい、つなげたい」という思いから。ネットショップ「舫」が、サービス精神が豊かで、もてなし上手な香住の人と、クオリティの高い海産物を求める人との出会いの場になることを今後の展望としています。


(ネットショップ「舫」で取り扱う、香住、柴山港で水揚げされる甘えび。鮮度抜群の船上凍結です。)

「こんな素晴らしいスペースを、自分たちだけで使うのはもったいない」という気持ちから、オフィスとしている旧岡見亭を、「レンタルスペース岡見」として、ヨガやギャラリー、食事会などに使えるフリースペースとして提供しています。また、海を眺めながらゆったりコーヒーなどのドリンクを楽しめるカフェも開設。気軽に立ち寄れるスペースになっています。

地域の人が立ち寄ってホッと一息ついたり、ギャラリーとして自分の作品を展示するなど自己表現の場として使ったり。今後は飲食も含めたイベント運営も視野に入れ、「ここで出会った人が交流して何か新しいことが生まれる場であれば」と考えています。


(レンタルスペース岡見 素敵なバーカウンター)

漁業以外の地域産業「海上タクシー」を応援したい

 


(かすみ海上GEO TAXIの運転手のお一人 荒木 則雄さん)

 

 

旧岡見亭から見える海は、2019年5月にスタートした「かすみ海上GEO TAXI」のコースとなっています。香住海岸は、ユネスコ世界ジオパークに認定されている山陰海岸国立公園の中心地。かすみ海上GEO TAXIではなかなか見られない絶景スポットを小型船で巡ります。

海岸からは計り知れない自然の産物、岩や波が作り出す洞窟のような場所、美しく透き通った海水など、たくさんの見どころに感動間違いなしの遊覧を終えた後、レンタルスペース岡見から海を眺め、ゆったりと素敵な体験を振り返るのもおすすめの過ごし方です。

池本さんもこの事業を応援していて、「香住はカニなど、冬の仕事はもともと多くありますが、海上タクシーが始まることで漁師さんの夏の仕事ができると知り、地域の新しい事業として応援したいと強く感じました。香住はジオパークの中でも中心地なので見どころがとても多く、ぜひ長時間のクルーズを楽しんでいただきたいです。」と話します。


(海上タクシーから見るレンタルスペース岡見)

 

長年海に暮らし続けてきた漁師さんだけが知る、穴場絶景スポットに行けることはもちろん、香住の人が持つ強く優しい人柄に触れ、香住の海を知り尽くしている漁師さんだからこその詳しい解説も味わい深く楽しめます。

「食文化」としての香住の海産物と、それを生み出す広く豊かな海、それに携わる人。全てを結びつける池本さんのこれからのご活躍に期待が高まります。

 

石材加工を通して見る村岡、Iターン者として見る村岡

石材加工を通して見る村岡、Iターン者として見る村岡

香美町村岡区の長須集落にある「中島石材店」。技術力に定評があり、地域の方から慕われ続けている石材店です。技能士の中島雄大(ゆうだい)さんは、村岡生まれの村岡育ち。一度故郷を離れるも、Uターンして家業であった石材店で活躍しています。生まれ育った地域に戻り、働く中で日々感じることや気づいたことをお伺いしました。

家業を営む自分の姿が見えた

 

「始め石材店を継ぐつもりは全くありませんでした」と語る雄大さん。高校2年生のときの進路希望でも、「都会に出てみたい、違う世界を見てみたい」という思いから地元を離れた大学進学を希望していました。

「その時に親に『やりたいことが明確にないなら進学させる気はない』と言われ、それならどうしようかと考えたときに、初めて小さいときから来ていた石材加工の現場についてのイメージが湧くようになりました」

 

それまでただ「家業」として見ていた石材加工に、将来の自分の仕事像が見えてきた雄大さんは、日本三大石製品産地でもある愛知県岡崎市で5年間修業の日々を送ることになりました。昼間は仕事、夜は石材加工の勉強と忙しく充実した日々。さらに技能士大会へ向けての練習も重ね、平成25年の技能五輪全国大会ではグランプリを受賞するなど、技術力を極めてから、故郷に帰ってきました。

 

 

地域に根ざすまちの石材店「中島石材店」としての誇り

 

高校を卒業するまではただ住んでいる場所という印象だった村岡ですが、帰って来て働くことで、地域が抱える課題も見えてきました。20代の雄大さんが肌で感じるのは同年代の少なさです。

「同級生にも帰りたいと思っている人はいますが、その人たちの話を聞いていると、こちらにはしたい仕事が見つからず、したい仕事ができる場所で暮らしているという印象を受けます。石材加工の仕事が好きだと思えて、生まれ育った場所で働けているのは幸せなことだと感じています」

 

車社会であることなど、不便さは否めない環境ですが、「その分一人ひとりに責任と重みがあり、一人ひとりが大切にされているし、自分自身が地域の課題に向き合わなければならないと感じています」

村岡区や小代区中心に発注を受けている中島石材店。墓石や庭灯籠はもちろん神社仏閣から依頼に応じた製作を行っています。

 

「国内加工、自社加工にこだわって、お客様のニーズに答える石材加工をしています。石は腐るものではなく、残り続けるもの。地域の方から長く大切にしていただけるものです。実際建てた墓石に、手を合わせている方を見ていると、ますますキチンと作らなくてはと身が引き締まる思いです」

地域の一員として、使命感を持って石材加工の仕事に勤しむ雄大さん。現在は一児の父として、育児にも携わりつつ、日々の暮らしを楽しんでいます。

地域おこし協力隊から、結婚。一児の母として見る村岡

 

奥様の絵里奈さんは愛知県の刈谷市から地域おこし協力隊として香美町へ。村岡高校での高校支援教育コーディネーターとして活動していました。村岡高校では総合的な学習の時間に地域元気化プロジェクトで地域活性化に向けた活動を行ったり、国語・数学など通常の学習だけでなく、地域に学び地域に貢献する人材を育成することに力を入れたカリキュラムなどが組まれています。

「中学校では地元の知り合い同士の関係だった生徒たちに、他県から入学した生徒が合流することで、地元の生徒たちが刺激を受けている印象をもちました。町内に住んでいる子どもの数が少ないので、自分の意見を主張することが苦手なのではないかというイメージがありましたが、意外と個性にあふれていて、志を持った生徒が多いなと感じました」

(絵里奈さんが高校支援教育コーディネーターとして活動した村岡高校)

現在雄大さんと結婚し育児に専念している絵里奈さんですが、暮らしの中で、買い物や医療など、選択肢の少なさを感じることもあるそうです。

 

「いろいろなものを地域に循環させるようなこだわりのある新しいお店や施設ができたらと思います。やはり、若い方が少ないので、今後地域に生活や仕事を楽しんでいる、『かっこいい大人』がどんどん増えて、若い世代が残りたいな、帰ってきたいな、役に立ちたいなと思えるようなまちになってくれたらという願いがあります」

この地域で叶えたいことはたくさんあり、育児の傍らで地域の展望を考えることもあるという絵里奈さん。地域に根ざした職業で地に足をつける雄大さんとともに、このまちのこれからの力となる若い世代として、この場所で自分たちができることを熟考しています。

(中島絵里奈さん、雄大さん、1歳になる大里くん、愛犬ダナとともに)

 

贅沢な時間が過ごせる小代に、人が集まるゲストハウスを

贅沢な時間が過ごせる小代に、人が集まるゲストハウスを

都会で生まれ育った女の子が、ひょんなことから小代に。四季折々の小代を体感するうちに「いつか暮らしてみたい」と思うようになり…。数年後には移住、そして小代の男性と結婚、民宿だった空き家を改装して「スミノヤゲストハウス」をオープン。小代に出会い、小代を満喫する田尻茜さん(旧姓:北田さん)に、小代との「馴れ初め」をお伺いしました。

(スミノヤゲストハウス 外観)

 

「4回だけ」のつもりで訪れた小代が「いつか住みたい場所」に

 

茜さんは大阪生まれの神戸育ち。特に田舎暮らしに憧れることもなく、都会っ子らしく成長してきました。そんな彼女が小代に出会ったのは大学生の時。観光学科で学んでいた頃、「香美町の小代というところに年4回行く」という一風変わったゼミのカリキュラムに出会います。「4回行くだけで単位がもらえるなら良いかなと思って」気軽な気持ちで初めて小代を訪れたのが、人生のターニングポイントとなりました。

棚田が広がる風景が美しく「日本で最も美しい村連合」にも加盟している小代。春は桜や菜の花がカラフルに色づき、新緑、紅葉、雪景色…、来る季節ごとに新しい表情を見せる小代に茜さんは惹かれました。

(スミノヤゲストハウスの大きな窓から見える、小代の棚田の風景・5月)

 

「環境の良い村は日本中の色んな所にあります。住んでみたいなと思えたのは、何度も来ることで小代の人と知り合うことができたから。知り合いが増え、小代にどんどん愛着が湧いていきました」

学生時代から茜さんが関わり続けているのが「俺たちの武勇田(ぶゆうでん)」。週末、美しい棚田の風景を守るために地域内の棚田で米作りをする有志の団体です。地域の方に農業を教えてもらいながら取り組む、同じ志を持つ若手の方とのつながりも、茜さんが小代を好きになった理由でした。

(武勇田で活動中の茜さんの様子)

 

地域おこし協力隊から、夢のゲストハウス構想へ

大学卒業後、一度は大阪で就職したものの、小代のことが忘れられなかったという茜さん。そこに入ってきたのが香美町の地域おこし協力隊募集の情報でした。「これはきっかけだ」と直感的に感じ、2ヶ月後には小代に移住。学生時代から知っていた地域の方に相談し、住むことになったのが現在「スミノヤゲストハウス」を運営する物件でした。

「一人では持て余すくらい広くて、でも地域おこし協力隊の活動をしながら、この場所で何かできないかなと考えるようになりました」

 

(スミノヤゲストハウス ダイニング)

 

地域おこし協力隊の任期は3年。でも3年後もその先も小代で暮らしたい。そう考えた茜さんはふと大学時代のことを思い出します。

「ゼミで来ていた頃にも、空き家を借りて拠点にして小代を回っていました。拠点を作ることで人と知り合えたし、村の中にも入っていけて、小代を好きになった。自分もそういう場所をつくることができるかなと」

地域おこし協力隊として関わったのは「木の駅プロジェクト」。美方郡全体のプロジェクトだったこともあり、香美町だけでなく新温泉町の知り合いも増やすことに尽力しました。

「ゼミでお客さんとして小代に来ていた頃と違い、住んでからは地区の仕事もしないといけないし、頼ってばかりじゃなくてこちらもお役にたてるようになりたいと意識が変わってきました」

(スミノヤゲストハウス 寝室)

夢でもあるゲストハウスは、小代に人が出入りしやすくなるための拠点であり、地域のためにできることの一つではないか。そう考えた茜さんは、知り合いを増やしながら自分の思いや夢を伝えることに時間を使いました。

「地域の飲み会も大切にして、会議にも参加して、地区のおばあちゃんたちにいろんなことを教えてもらって。地域おこし協力隊の3年間は、自分を知ってもらうための営業活動の期間でもあると考えて活動しました」

(ある日の朝食。お客様との協同調理で食事をご用意します)

 

「何もしない」贅沢を楽しめるスミノヤゲストハウス

 

ゲストハウス構想をいざ形にするときには、地域の方が集まるサロンにプロジェクターを持ち込み、構想や思いをオープンに説明。茜さんの思いが地域の方にも届き、ゲストハウス改装のためのクラウドファンディングを開始したときには、「インターネットはよくわからないから」と直接茜さんに支援金を手渡しされたこともあるなど、多くのバックアップを受けました。ゲストハウスの改装は「畳を貼るイベント」「床を解体するイベント」などイベント形式で多くの方に協力して貰う形で進め、関わる業者の方も小代で昔から親しまれてきた方ばかり。2019年4月、晴れて「スミノヤゲストハウス」がオープン。大型連休には家族連れや海外からのお客様など、多くの人が訪れました。

(スミノヤゲストハウス プレオープンパーティの様子)

 

「特別なアクティビティがないぶん、絶景を見ながら何もしないという贅沢な過ごし方ができるというのが魅力だと思います。ごろごろしたり、漫画を読んだり、縁側で猫を触ったり。日々忙しくされている方がお休みを満喫できる場所です」

 

(お客様に愛される看板猫 ヨシコさん)

今後は海外のお客様に向けて小代の食材を使ったヴィーガンメニュー(菜食主義者に対応したメニュー)の開発や、小代にまだたくさんある空き家を使ったプロジェクトなど、夢や構想が膨らむ茜さん。小代だからこそもっとできることがあると、日々精力的に過ごされています。

 

  • 店名
    スミノヤゲストハウス
  • 構造
    構造 8畳のお部屋をふすまで仕切った2部屋。男女別ドミトリー。共同調理。
  • 営業日
    金・土・日・月
  • TEL
    080-6122-4014
  • 所在地
    兵庫県美方郡香美町小代区貫田197
  • 宿泊料金
    6,000円/一人 朝夕の食材費込
  • web
手に届く場所で満ち足りる、柤岡の暮らしと仕事

手に届く場所で満ち足りる、柤岡の暮らしと仕事

 

香美町村岡区、標高約500mの山上にある集落、柤岡(けびおか)。かつて民宿だった大きな古民家が、木と手仕事の香りが漂うピッツェリアに生まれ変わりました。ゆったりと流れる時間を味わいに、遠方からも多くの人が訪れる豊かな自然を感じる空間。「JINENAN(ジネンアン)」を経営するのは岸本元気さん、葉子さんご夫妻です。柤岡の自然とともに暮らし働く、お二人のライフスタイルについてお話を伺いました。

 

(JINENAN 看板)

豊かな四季折々の風景と営みがある柤岡に惹かれて

(岸本元気さん)

柤岡で育った元気さんと、千葉県出身の葉子さんが出会ったのは東京でした。ものづくりが好きなお二人は、その頃から趣味でパンを焼き、ハンドメイドやクラフトを楽しんでいたといいます。東京で働きながら、長い休みが取れるたび、元気さんの故郷である柤岡へ。葉子さんも元気さんのお母様と一緒に山に入り、季節の手仕事を楽しみ、自然や四季折々の風景を満喫しているうちに、自然と柤岡という土地に惹かれるようになりました。

(岸本葉子さん)

お二人が「柤岡に帰ろうか」と考え始めたタイミングでお母様からも「家業の民宿を閉めようと思う」と発信がありました。現在JINENANがある古民家は、岸本家の持ち山から木を切り出し、村の人達と共に建てた、思い入れ深い建物です。香美町の中でも特に雪の多い柤岡で、冬の間村の人達が集まってものづくりをする、集いの場でもありました。

(JINENAN 外観)

「ここは人が集まる場所だから、お店をしてもいいかもしれない」

それまで東京のイタリアンレストランで勤務していた元気さん。自然と食の豊かな柤岡で、山と自然のある暮らしの中、自分たちの思うお店を作りたいと考えるようになりました。

畑に入り、山に入り、ピッツァを焼く。「JINENAN」でめぐりつながる暮らしのスタート

(JINENAN 内装。木のぬくもり溢れる空間)

 ものづくりがとにかく好きなお二人。和風の民宿をイタリアンレストランにリノベーションするのも、自分たちの手で行いました。自分たちで畳をフローリングに張り替えるなど、見慣れない光景に村の方たちも何度も改装の様子を見に来られました。

「はじめから明確に『こんなお店にしたい』と決めていたわけではないのですが、僕たちが居て心地良い店かということを考え、好きなものを置いているうちに今の形になりました」

(JINENAN 内装。食事を待つ時間も豊かにゆったり流れる)

毎年12月から翌年3月ごろまで、JINENANは冬季休業に入ります。その「冬ごもり」の季節に、毎年少しずつ改装を兼ねて、より居心地の良い空間へと手入れし続けてきました。常連のお客様は、毎春JINENANの新しい表情が見られるのを楽しみにしています。冬期にはお二人の好きなものづくりも行い、レストランの営業日にはご自身の作品やお母様の陶器、近隣の作家さんの作品とともにレストラン内の雑貨コーナーで展示販売します。

4月から11月も、営業日は土、日、月、火の週4日。残りの3日は畑作業をしたり、持ち山の手入れをしたりしています。空気の澄んだ柤岡で育った野菜を新鮮なままに提供することは、柤岡でしか味わえない贅沢です。またオープン当初はピッツァの取扱がなかったJINENANがピッツェリアとしてリニューアルオープンしたのは、山の手入れをしてきたことがきっかけでもありました。

(自家製の薪が美味しいピッツァを焼く燃料に)

現代では持ち山があっても山に入ることが難しく、荒れてしまうケースが課題になっていますが、本来の山は、人と共存しながら暮らしの恵みを入手できる場所でもありました。元気さんと葉子さんは山の手入れで出る薪を、ピッツァを焼く燃料として巡らせることにしました。もちろん、石窯も元気さんの手作りです。

(JINENAN キッチン。左手に元気さんお手製のピッツァ窯が)

ここでしかできないことを、この場所とともに

「香美町は山、川、海がコンパクトにまとまった場所。自分たちの欲しいものはすべてここにありました。」

(パリッと香ばしいピッツァメニューの一例)

国産の小麦粉と、自家製の天然酵母を使って焼き上げるピッツァは生地の香ばしさと食感が大きな魅力です。季節のメニュー「ケビナーラ」はその時そこにある食材をもとにレシピを考案。数週間しか取れない食材もあり、常に「今ここにある」そして「今ここにしかない」季節の恵みを凝縮した一枚になります。具材は野菜の他、香住・浜坂の海の幸や、小代区のNPO法人D.B.Cグループを運営する「峰鹿谷(ほうろくや)」から仕入れるジビエなど、「ここにあるもの」を中心に取り揃えます。

(その時そこにある恵みをふんだんにつかった季節のピッツァ)

「山から切り出した薪を燃料にして、毎日開店して薪を過剰に使い過ぎると、里山の自然環境のバランスが崩れてしまい兼ねません。この村でできることを考えた時、一週間の中でお店に携われる時間は3、4日がめいいっぱいだと感じました。山や畑にいる時間をお金に換算するのは難しいけれど、僕たちの大切な生業の時間です。」

 柤岡だからできることを、柤岡という土地に感謝しながら賄う。目まぐるしい毎日の中でつい置き去りにしそうなことをもっと自然に、丁寧にと心がけて日々の暮らしに精を出すお二人。

「仕事のために暮らしているわけじゃなく、日常の暮らしが豊かになることで充実した仕事ができたらいいね、と話しています」

 緑が芽吹く春には、また新しい自然の恵みが柤岡にやってきます。次の春の訪れを、岸本さんご夫妻もJINENANを愛するお客様も心待ちにしています。

※2019年3月16日(土)営業再開予定です。

  • 店名
    JINEN AN 〜山村の石窯ピッツェリア〜
  • TEL
    080-3206-5033
  • 所在地
    兵庫県美方郡香美町村岡区柤岡632
  • 営業時間
    11:30〜15:00頃(売り切れ次第終了)
  • 定休日
    水、木、金曜日 12月~3月 冬季休業 臨時休業あり
  • web
小代で遊ぶ楽しさ、暮らす楽しさを自ら作り出し発信!

小代で遊ぶ楽しさ、暮らす楽しさを自ら作り出し発信!

 

棚田の広がる優美な風景が広がり、2012年に「日本で最も美しい村」連合に加盟認定された香美町小代区。冬場はファミリーを中心としたスキーヤー・観光客でも賑わいます。そんな小代全体の見どころを紹介する「小代観光協会」の中に、モダンテイストのカフェ・バー「山の駅SHAKUNAGE(シャクナゲ)」があります。

オーナーの松田晃宏さんはご実家の家業でもある「民宿 松田屋」の若旦那でもあります。飲食店と民宿の経営を両立させながら、更にアクティブに小代ライフを楽しむ松田さんに、小代暮らしの面白さをお伺いいたしました。

「山の駅SHAKUNAGE」外観

 

 

好きなことを仕事に!ふるさと小代「山の駅SHAKUNAGE」でワクワクを形に

 

前述の通り、小代の民宿で生まれ育った松田さん。いつか自分が民宿を継ぐイメージを持ちながらも、それは第二の人生として、ずっと先のことだと考えていました。大学進学を機に小代を離れ、就職で大阪に。飲食とは全く違う分野で活躍していましたが、大学在学中にアルバイトをしていた飲食業界に再度惹かれ、転職。

松田晃宏さん

 

「飲食業は拘束時間も長く、お店を閉めている時間にもすることが多くあり、傍目から見たら大変な仕事だと思われるかもしれません。でも自分にとってはさほど大変に感じることもなく楽しめて、『好きなことを仕事にする』ってこういうことなのかな」と感じました。

その後も飲食店のプロデュースに関わるなど、大阪で好きな仕事に励んでいた松田さんでしたが、ご家族に乞われ、想定より早い30代で小代に帰郷。民宿の仕事を手伝いながら、「ただ後を継ぐだけでなく、なにか面白いことができないか」と考えていたとき、現在「山の駅SHAKUNAGE」がある物件の前オーナーに出会います。トントン拍子に話がまとまり、飲食店勤務やプロデュースの経験を生かして小代では珍しいカフェ&バースタイルのレストランを開店。2013年に帰郷してすぐのスピード起業でした。

「山の駅SHAKUNAGE」内観 バーカウンター

 

 オープンに当たり、同世代が利用しやすい場所、若い人たちが入ってみたくなる場所をと、手作りの棚などを中心にモダンで落ち着ける、シックな空間づくりを心がけました。夜間は予約営業ですが、柔らかい照明が空間を彩り、結婚式の二次会や同窓会に利用されることもあります。この空間づくりには、松田さんの小代に対するある想いがありました。

 

小代にいる時間をもっと楽しく充実したものに

「山の駅SHAKUNAGE」内観 テーブル席

 

 小代区の民宿は、スキー・スノーボードの季節がメインシーズンです。滝や棚田などの美しい風景や、大自然を体験する野外活動施設など、冬以外のシーズンでも見どころはありますが、観光地としてはハンデもあると松田さんは考えます。

「小代に来る方は、大阪や神戸などの関西圏の方が中心です。車があれば3時間で来ることはできますが、交通の便が良くないのでマイカーありきのプランになってしまいます。その中で小代を選んでくださった方には、スキーやスノーボードはもちろん、小代の滞在の時間を楽しんでいただきたいと思っています」

小代に帰って3-4年目からは家業の民宿も中心となって業務を引き継ぐようになり、大規模改修を行いました。旅行に来られる方の滞在の時間をより楽しいもの、充実したものにしてもらいたいという想いで、民宿の1Fにはカクテルなどが楽しめるお洒落なバーをオープン。そして、滝や棚田を楽しむ帰りにゆったりとコーヒーを楽しめる時間をという想いが、カフェスペースとしての「山の駅SHAKUNAGE」の内装にも表れています。現在「山の駅SHAKUNAGE」は、休日は香美町外の観光客の方を中心に賑わい、平日は地元の人の集まるスペースになるなど、日によって全く違う層のお客様に親しまれています。

「山の駅SHAKUNAGE」内観。照明や手作りの棚にもこだわりが

 

「小代は交通の便がどうしても悪いのですが、だからこそ、不便でもこの場所をめがけて来てくれるような魅力のある場所にしていきたい」

この場所にまた来たい。だから小代に、香美町にまた来よう。そう思ってもらえるような場所として、松田さんは「民宿 松田屋」「山の駅SHAKUNAGE」の場作りに勤しみます。

 

小代に新しい風を吹き込み、自ら仕事も遊びも楽しむ姿勢

松田さんがセレクトした但馬のお土産が棚に並びます

 

 「山の駅SHAKUNAGE」の魅力は雰囲気のある内装だけではありません。メニューに使用されている食材のクオリティの高さも特筆すべきもので、牛肉は地元畜産家である「上田畜産」から仕入れた「但馬玄(たじまぐろ)」を使用。「但馬玄」は上田畜産で月に2、3頭しか出荷されない希少な牛で、融点が低くサラッとした脂が特徴です。旨味や甘みをしっかり感じられ、後味もしつこくない高品質の肉で、海外や東京の高級店など卸先も限られています。和牛のふるさと小代で育った牛の肉でありながら、なかなか小代でも食べることができない但馬玄が、「山の駅SHAKUNAGE」ではローストビーフ丼、ステーキ丼としてランチに予約なしでも食べることができるという贅沢さです。

但馬玄の風味を活かすシンプルな調理で贅沢に ステーキ丼

 

 またお手軽な但馬玄の牛すじ入りのコロッケは、テイクアウトとして散策の傍ら楽しむことができるものをと考えられました。ランチメニューのコロッケを挟んだハンバーガーも、サクサクでコクのある味にボリューム感もたっぷりで人気の高い一品です。それまでの小代では見られなかった新しい方面でのメニュー開発でした。

牛すじコロッケはテイクアウトも可能

 

「新しいものに対して躊躇するような地域の雰囲気もありますが、これから若い人がたくさん来てもらえるような場所にするためにも、新しいものには積極的に飛びついたらいいのではと思います。こんな田舎だから……と謙遜しすぎる面もありますが、小代での暮らしは朝の出勤前にスノーボードをできるというような楽しさもあります。自分の工夫次第で、ライフスタイルはどんどん楽しくできる。それを自分で実践して、発信していきたいと思います」

 

 

 若い世代だからこそ発信できる小代暮らしの楽しみ方。同世代で「若旦那の会」を結成しイベント出店も行うなど、横のつながりも大切にしながら仕事も遊びも楽しむ松田さん。まずは自分が小代暮らしを楽しみ、そのスタイルに共感する仲間たちが増えるのを待望しています。

女の子目線の雑貨、ブライス人形、地域の内外に「可愛い」を発信する店

女の子目線の雑貨、ブライス人形、地域の内外に「可愛い」を発信する店

JR香住駅すぐ近くにある、色鮮やかな雑貨のお店、「JUNK★」。お店では様々な雑貨のほか、駄菓子の取扱もあり、夕方や週末は地元の小中学生、高校生で賑わいます。また、ブライス人形など独自の取扱商品が呼び水となり、遠方からのお客様も多いというこのお店。オープンしたのは、香住にUターンしてきた久保かおりさんです。

大阪から香住へ、ガラリと変わった子ども時代の暮らし

かおりさんが幼い頃暮らしていたのは香住ではなく、大阪府でした。香住で暮らし始めたのは小学校高学年のとき。香住に来て日常の生活に大きな変化がありました。

「大阪では、友達と公園に行ったり、買い物に行ったりすることが遊びの中心でした。香住に来てからは、海を見ながら友だちとゆっくり話すことが中心になり、放課後の過ごし方が大きく変わりました」

小学校が同じだった友達とそのまま一緒に中学校に進学し、高校は地元の香住高校へ。当時の水産食品科で魚や船舶のことなどについて学びました。高校卒業後は香美町内の就職先が少なかったため、県外に出て、アパレル関係、雑貨屋さんを始めとした様々な職種を経験しました。

帰郷を考えた当初は、雑貨屋さんを経営する計画はありませんでした。ブランド雑貨のネット販売を計画し、そのための拠点となる場所を探していたところ、現在「JUNK★」がある物件に出会います。

JUNK★ 店内の様子

「ここだったら好きな雑貨を揃えてお店ができると思いました。でも、日常的にお客様が来てもらえる場所にもできたらと思い、お店の半分を駄菓子屋さんにすることにしました」

電車通学の高校生や遠足前の子どもたちで賑わう駄菓子コーナー

香美町に駄菓子屋さんが復活したのは25年ぶり。子どもたちはもちろん、かつて香住にたくさんあった駄菓子屋さんを懐かしむ大人からも喜ばれました。

地域内外から人が訪れるワクワクを詰め込んだお店

「JUNK★」がオープンした2016年から2年。普段は地元の子供達が『ワクワク』を見つけに来るスポットとして愛されています。遠足のときのお菓子はもちろん、小学生がお小遣いを握りしめて買い物に来ても十分手が届くようなアクセサリーや文房具、雑貨がたくさんあり、お友達の誕生日プレゼントを選びに来る子どもたちもいます。

子ども向けの可愛いアクセサリーや文房具の取扱も

「今の子どもたちはYouTubeを見て流行をキャッチしています。『YouTubeでやってたあの雑貨おいてる?』と言ってお店に来たり。なので、普段からSNSを活用して情報を集め、お客様に『ワクワク』してもらえるものを取り揃えています」

コレクターの多いカプセルトイなどは、入荷すぐに品切れになってしまうことも。熱心なファンの多い商品は、遠方からもお客様が訪れます。その一方で、地元の子ども会や学校のイベント用にお菓子の詰め合わせを作って欲しいという依頼を受けることもあるなど、地域から求められる商品づくり行っています。オープンから2年を振り返り、かおりさんは起業という面での香美町をこう評します。

「ただ流行っているからとか、都会にあるからというだけでは難しいかもしれませんが、特色のあるお店であれば、香美町はライバルも少ないし、始めやすい場所です」

話題性の高いカプセルトイは、行列になることも
アクセサリーは子ども向けのものから大人向けのものまで。ハンドメイド品も多くあります

その言葉の通り「JUNK★」には、流行のアンテナに敏感であること以外にも大きな特色があります。

ブライス人形、女の子目線…独自のコンセプトが人を引きつける

「JUNK★」のメイン商品とも言えるのがブライス人形。大きな頭が特徴の着せ替え人形で、紐を引っ張ることで瞳の色が変わるなどのしかけもあります。リカちゃん人形との互換性があるためリカちゃん用の服も着せ替えでき、また人形のカスタマイズもできることから、大人を中心とした愛好家の多い人形です。

JUNK★店内に展示中のブライス人形の一部

関連グッズから取り扱いが始まり、現在では人形本体や洋服も多数取り揃えており、ハンドメイド作家の方が作ったブライス用の洋服の委託販売も行っています。

リカちゃん、メルちゃん、ブライスなどのハンドメイド洋服がたくさん

特色ある品揃えが話題になり、県外等からもブライスファンの方が多数ご来店されます。特設の撮影スペースで手持ちのブライス人形の撮影をする方も多いのだとか。

手作り家具などを取り揃えた撮影スペースで、香住ならではのコスプレ写真も

その他の雑貨など取扱商品は「女の子目線」を大切にセレクト。キラキラしたもの、個性的でポップなデザインのもの、小さな女の子から大人の女性まで思わず手に取りたくなるような雑貨がぎゅっと詰まっています。

ブライス人形グッズも人気

「かわいいは世界共通。海外からのお客様も、土地ならではのお土産という感覚ではなく『かわいい』で買っていただけることが多くあります」

失敗を恐れて悩むより、自分のやりたいことをやって失敗してから悩んだほうがいいと語るかおりさん。まずピンときたことを行動に移し続けて、いまの「JUNK★」ができあがりました。これからも、母娘で来て2人とも「女の子目線」で楽しんでもらえるような場所になればと願っています。

 

JUNK★店主 久保かおりさん

県内唯一の海洋科学科をもち、香住という地域の中にある高校として

県内唯一の海洋科学科をもち、香住という地域の中にある高校として

海の見える絶好のロケーションを誇る香住高校。普通科と海洋科学科、2つの学科を設置しています。普通科は香美町在住の子どもたちの主な進学先の一つであり、海洋科学科は県下全域から出願可能です。海洋科学科に入学したことをきっかけに香美町に移住する家族もあり、町の内外から人が集まる教育機関ともいえます。近畿全域でも水産の学びができる学校は2校しかありません。その一つである海洋科学科のある香住高校、その独自の取り組みと生徒さんたちの様子を伺いました。

香住高校海洋科学科で得られる独自の学び

 

現在海洋科学科に所属する生徒さんは、8割が但馬地域外からの入学。県内唯一の香住高校の海洋科学科には、漁業・操船・船舶の仕組みについて学ぶ「オーシャンコース」、食品の調理や加工などについて学ぶ「シーフードコース」、生物や環境に関する知識や技術の修得を目指す「アクアコース」の3つのコースがあります。香住高校でしか学べない独自のカリキュラムに惹かれ、近年入試の倍率が2倍を超えるなど、人気の高い進学先です。

自宅から通学できない生徒のために、香住高校では「若潮寮」という寮を構えています。平成30年度には高校敷地内に寮を新設。それまで男子のみ入寮可能だった若潮寮も、最新の設備とセキュリティシステムを兼ね備え、女子学生の受け入れが可能になりました。

寮生活で生徒たちが学ぶのは集団生活で培われる協調性と、規則を守って過ごす忍耐力。これらの力は、オーシャンコースで51日間にわたり行われる航海実習での基礎にもなります。

実習船「但州丸」航海実習、見送りの様子

 

海洋科学科で教鞭をとられる篠原健悟先生にお話を伺いました。主にシーフードコースのご担当ですが、オーシャンコースの海洋実習に同行されるなど、海洋科学科全体と関わりがあります。

海洋科学科 篠原健悟先生

 

「香住高校、特に海洋科学科は他の学校と比べても先生と生徒の関係が密になります。特に寮生で親元を初めて離れる子どもたちにはホームシックなど、ケアが必要になることもあります。1年生の4月5月は、できるだけじっくりと話を聞くことを心がけています」

篠原先生だけでなく、香住高校にお勤めの全職員で若潮寮にて交代で舎監を務めます。生活のルールを伝えたり心のケアに努めたりと先生方に求められる対応は幅広いものになります。

その分2年生、3年生には生徒さんたちも大きく成長し、各種・長期の実習を通して「自らの頭で考え、自ら行動する子が増える」と先生方も成長を実感する場面が多くあるのだとか。その他アクアコースは水族館に実習に行ったり、シーフードコースでは地元の旅館の板前さんからの特別授業があるなど、特色ある授業が多彩に展開されています。

シーフードコース 実習の様子

 

地元の子供達にとっても独自の学びがある環境

香住高校 渡邉保幸校長先生

一方、香美町で生まれ育った子どもたちが多く進学してくる普通科も、進学希望や就職希望などそれぞれに将来設計があり、それに応じて合致するカリキュラムの提示を行っています。普通科は多くの生徒さんにとって、小中学校からの友人たちと引き続き学べる安心した環境でもありますが、香住高校ならではの学びがあると、渡邉保幸校長先生はいいます。

「但馬地域で育った子どもたちと、地域外で育った子どもたちは、環境によって文化や気質が違います。それが、香住高校でともに学ぶことでいい影響や刺激を与え合います」

民宿や漁の風景を間近に育った地元の子どもたちに根づいた、お客様をお迎えする丁寧なおもてなしの心に、地域外の子どもたちが学ぶことも多くあります。また、地元の決まったメンバーで進学してきた地域内の子どもたちにとっても、これまでになかった価値観や人間関係を育成する機会になります。

 

 

グローバルに、ローカルに、未来への舵を取る

アクアコース タツノオトシゴの餌を分別

 

香住高校の多彩な学びに多大なバックアップをよせるのが、地域の方々です。例えば、「魚を食べよう!」を合言葉に魚食普及を推進している香美町で開催されるイベント「ととフェス」。このイベントで香住高校はシーフードコースの手がけた缶詰などの販売や、アクアコースの手がける香住高水族館の展示などを行います。ととフェスの運営を、香住高校と手を携えながら中心になって行うのが「香美町とと活隊」です。「香美町ふるさとづくり青年隊」と一緒に、学校側で手の回りにくいイベント運営の部分を担い、香住高校の活動を全面的にバックアップしています。

「香住高校に赴任して4年、校長としては3年目になりますが、地域が学校を支えてくれているという実感がひしひしと湧いている状況です。支え合い、助け合いの大切さ、それがとりわけ強いのが香住という地域だと実感しています」

地域の中の学び舎として、格別の応援を受ける香住高校。地域の皆様からもたくさんの学びを得て生徒たちは未来への一歩を踏み出します。

アクアコースの生徒たちが手がける水槽

 

生徒さんたちが香住高校で育むのは、自分の夢を見据えて、志した分野で輝くグローバルな視点と、地域を守り豊かにするローカルな視点。香住高校卒業生の進路は普通科、海洋科学科どちらも国公立大学、私立大学、専門学校、就職等多岐にわたります。香住高校で香住というローカルな視点を深め、地域で活躍する力。香住高校独自のカリキュラムで身につけた水産の知識をもってグローバルな視点で業界に貢献する力。生徒さんたちがどちらに舵を取っても輝けるよう、香住高校の先生方は尽力されています。